2019年10月18日

HPCで活性化する医療記録管理

法規制要件、組織統合、増大し続ける蓄積データ。こうした変化への対応とともに、医療プロセスで扱われる記録の管理には、絶えず課題が生じています。ハイパフォーマンスコンピューティングは、EHRに必要な機能を実現できるのでしょうか。
医療業界のコンピューティングインフラストラクチャが、すぐに寿命を迎えるかもしれません。
医療機関が、ITに対して予算を重視したアプローチを採ることは、昔からよく知られています。そうした機関では、画像化から診断や電子医療記録 (EHR) に至るさまざまな処理が、旧式のx86アーキテクチャーで実行されてきました。35年前に新たに開発されたこうしたシステムは、多くの業務で申し分なく役割を果たしています。
しかし、医療機関の合併とデジタルトランスフォーメーションに加え、仮想現実、拡張現実、人工知能といった高度なアプリケーションの増加によって、既存のバックエンドシステムでは処理が追いつかなくなっています。医師、看護師、患者が、そうしたシステムを、ますます遅くなる迷惑な技術と感じ、使用中に不満を抱くことが少なくありません。
「現在のシステムは、開発当時に想定された処理であれば非常にうまくこなします」と、Jerry Power氏は語ります。同氏は、University of Southern California Marshall School of Businessで、Institute for Communications Technology Managementを運営しています。「(しかし、) こうしたシステムは、今日入力されるデータ量や、現在の研究者が求める分析に対応できるようには、設計されていません。AIのような技術に対しても同様です。今必要な数多くの機能が設計当時、想定されていませんでした。それ以降、世の中が非常に進歩したのです」。

 

EHRの活性化

そうした状況が、とりわけ目立つのはEHRです。EHRには、患者の病歴を示す、ある意味ボイジャーのゴールデンレコードのような役割を求められます。理論上、ありとあらゆる記録、たとえば、予約、血圧や体温の測定値、予防接種、X線、MRI画像、CATスキャン、DNAなどを1か所に収められれば、医師や看護師が、すべての患者に、より正確な診断や適切な治療を計画できます。96%の病院が、EHRを利用する主な理由にそうした点を挙げています。2008年は、その割合がわずか9%でした。
理論上は立派でも、実践上はどうでしょうか。患者ひとりひとりの情報を取得してデジタル化している担当者は、医療の品質向上よりもデータ入力に時間を費やしていると感じています。結果として、最近、EHRに反発する動きが見られるようになりました。実際に、ある調査によると、EHRが医療品質向上につながるかどうかについて、医師と看護師の意見が分かれています。EHRを有害と見る医師と、有益と考える看護師が増加しているのです。別の調査でも、61%の医師が、EHRによって、効率と生産性にマイナスの影響が及ぶと回答し、54%が、患者と医療従事者との関係を損なうと考えています。
すべての医師がEHRを無用と考えているわけではありません。大部分の調査で、むしろ、そのシステムの改善を期待していると見られているようです。さらに一部の見識者は、そもそもの原因は、医療データの増加 (ある調査の予測では1年に48%増加) によって、旧式のサーバーとストレージシステムが高負荷になっていることにあると考えます。

 

従来のコンピューティングの課題を克服する

「環境を改善する取り組みを特に妨げているのは、従来のコンピューティングソリューションに限界があることです」。今年の初め、ヒューレット・パッカード エンタープライズの社長兼CEO、Antonio Neriは、ある記事でそのように述べています。「私たちの要求に、コンピューターの進歩が追いつかず、洪水のようにデータが増加しています。私たちが生成するデータは、2年ごとに増加しており、その大部分が、エッジや、ネットワークの周辺で発生しています」。
Chilmark Research社の医療業界アナリスト、Brian Murphy氏も同意見です。
「ここ数年、以前測定できなかったものを数値化することが、非常に重視されています。とりわけ、医療の品質がその対象になりました」とMurphy氏は指摘します。「それが、分析用ソフトウェアに次々と投資するきっかけとなり、組織は、それに対応可能なサーバーとストレージを購入しなければなりませんでした。変化は他にもあります。データの種類がきわめて多様化したのです。遺伝子工学に関する研究、プロテオミクス、ゲノミクスなどのデータがシステムに取り込まれています。医療組織の多くが、こうした現状に対処できる方法を求めています」。

 

注目されるHPC

一部の組織で、現在検討されているのは、x86インフラストラクチャを手放さないことです。ただし、先進的かつ強力な、ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) システムにアップグレードします。こうしたスーパーコンピューターで、現代の医療記録管理に関する問題をすべて解決できるわけではありません。しかし、医療業界で悩みの種になっているパフォーマンスと拡張性の問題に、すぐに対処できます。
「HPCによって、医療従事者の環境が大きく変わります。特に、AIのようなより高度な技術を利用する場合や、処理するデータ量が膨大になった場合にそれを実感できます」とPower氏は語ります。「医師にとって、医療データの管理は、非常に時間がかかるものです。コンピューターの性能によっては、処理にも時間がかかります。だからこそ、HPCが役に立つのです。旧式のコンピューターで巨大なデータベースを検索するときのように、15分以上も待つわけにはいきませんから」。
従来のHPCシステムでは、並列処理によって高度なアプリケーションプログラムを、効率的かつ確実に、すばやく実行できます。優れているのは、膨大な量のデータの処理だけではありません。HPCなら、医学研究者が、数週間、または数か月、場合によっては数年もかけて解くような、複雑な計算問題をすぐに解答できます。そうした理由から、現在のサーバーシステムの改善につながる、HPCの将来性が注目を集めています。
一方で、最新のHPCをさらに強化できる状況にある、とも考えられています。実際に、比較的新しいアーキテクチャーが存在し、さらに大量のデータと複雑な処理にも対応できると、有望視されています。

 

メモリ主導型コンピューティングの登場

メモリ主導型コンピューティングとして知られる、このアプローチが特に優れている点は、システム内の各プロセッサーが、巨大な共有メモリプールにアクセスできることです。初期のコンピューティングシステムでは基本的に、1つのプロセッサーが、自身のメモリ内にはないデータにアクセスする場合、データの保存場所を示す情報をプロセッサーに要求する必要がありました。対象のデータが、ディスクのどこかにある場合も同様です。そうした情報のすべてが、メモリとストレージの階層間を移動することで、動作がきわめて非効率的になりました。メモリ主導型コンピューティングなら、何百テラバイト、またはペタバイトものデータをメモリ内に保持可能です。これにより、従来のコンピューターの数千倍もの速さで、問題を解くことができます。
これに使用するメモリは、1種類である必要はありません。メモリ主導型コンピューティングでは、価格、パフォーマンス、永続性のバランスを考えて、異なる種類のメモリを使用可能です。と言っても、それらはすべて、ある種のメモリファブリックによって均一に統合されます。
メモリ主導型システムによって、医療従事者が、その時々のデータ量に対応できるように思われます。同時に、処理性能を十分に強化して、組織のどの機能分野における拡大にも適応できそうです。
具体的には、このシステムにより、医師は、知らない間に進行し、人間の健康をむしばむ、がん、心臓病、アルツハイマー病、パーキンソン病、HIVといった、最も恐ろしい病気に対処できます。メモリ主導型コンピューティングが医療と生命科学の研究にもたらす価値により、計算機を必要とする研究で、さらに高速な反復処理が可能になります。 すでに、研究での効率性が何百倍も向上しています。また、非常にまれで、診断が難しい病気の定義と治療にも役立ちます。メモリ主導型コンピューティングの堅牢な予測分析によって、大部分の病気を未然に防ぐことが可能です。さらに、EHRとの効果的な統合が、医療データの記録と利用に対する不満の解消につながります。

 

サイバーセキュリティのイノベーション

当然ながら、大部分の医療組織が、すべての新しいデータ主導型システムで、サイバーセキュリティと、政府のプライバシー規制を主要な懸念事項と捉えています。Privacy Rights Clearinghouseによると、アメリカでは、過去5年間に、1億8,720万件以上の医療記録が侵害されています。また、セキュリティ保護の会社である、FortiGuard Labs社は、2017年に、医療分野で、組織あたり1日平均32,000件近くのネットワーク侵入が発生したと報告しています。医療分野でデータ侵害によって発生する費用はどの業界よりも高額で、1件あたり408ドルと報告されています。
メモリ主導型コンピューティングに関する初期研究の一環として、少なくとも1社のベンダー、ヒューレット・パッカード エンタープライズが、サイバーセキュリティ対策をHPCのハードウェアに組み込む方法を模索しています。特にシリコンがその対象になっています。従来、セキュリティは、ファイアウォール、ウイルス対策ソフトウェア、またはそれに類するアドオンによって、システムに実装されてきました。しかし、メモリ主導型コンピューティングのような新しいコンピューター設計では、ソフトウェアとハードウェア全体に、セキュリティを組み込む機会を新たに得ることができます。
データを基にした、有益な情報の収集、分析、取捨選択で、医療組織が直面している課題は、克服できないわけではありません。メモリ主導型コンピューティングのような強力なHPC技術は、業界で旧式となったネットワークの活性化において、すぐに重要な役割を果たせます。これにより、医師は、より高い品質の医療を提供することもできます。
HPCを活用するEHR: リーダーのためのアドバイス

  • 目標は、EHRが、ユーザーにとって有益なものではなく、障害と考えられている原因を取り除くことです。

  • 病歴データへの容易なアクセスは、患者にとって良い結果を生み出します。

  • メモリ主導型コンピューティングは、変革につながる可能性があります。
     

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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