2022年6月17日
エッジツークラウドのコンピューティングによるスマートグリッドとスマートシティの強化
スマートグリッド上に構築されたスマートシティは、エッジ、クラウド、およびオンプレミス環境を組み合わせることで、さまざまな機能を最適な形で運用できることを示しています。
リーダーのためのアドバイス
- スマートグリッドは、都市がより大規模なスマートシティへと進化するうえで欠かせない重要なシステムです。
- スマートIoTネットワークは、通常の運用を最適化するとともに、例外的なケースに対しては必要な知見と柔軟性を提供します。
- 企業の場合と同様に、多くの都市でも機密データはオンプレミスに、重要性の低いデータはクラウド上に保管されています。
2008年、カテゴリ4のハリケーン「アイク」によりヒューストンの電力網全体に壊滅的な被害が生じたことを、ヒューストン地域の約240万世帯に電力を供給しているCenterPoint Energy社は重大な警鐘と受け止めました。そこで同社は、電力網の周囲に設置したインテリジェントメーターやIoTセンサーを駆使して、自社サービスをIoTネットワークに転換する取り組みを開始しました。新たに構築されたスマートグリッドシステムを通じて、同社は電力の供給パターン、サービス、障害、インフラの損傷、セキュリティ侵害などに関する情報を自動的に得られるようになりました。
スマートグリッドでは、クラウドベースのコンピューティングを使用して、電力およびデータの多方向の移動が実現されており、電力の需要、供給、および機能の変化をリアルタイムで検知して対応することが可能です。こうしたネットワークには、災害への備えと復旧の自動化、大量のサービスコールへのデジタル対応、電力網の状態の常時監視といった画期的な機能が備わっています。
障害発生時にリアルタイムで変更を加えるなど、必要とされる場所に電力を柔軟に供給できる仕組みは、従来の電力供給方法とは一線を画すものです。「エネルギー市場は伝統的に、プロアクティブではなくリアクティブな傾向があります」と通信コンサルティングを主事業とするSTL Partners社主席アナリストのAmy Cameron氏は指摘します。「計画は過剰供給を基本としており、コスト的にもエネルギーの観点からも効率的とは言えません」。
スマートシティにおけるエッジコンピューティングの活用
都市や自治体では、地域全体のインフラ機能やサービスを最適化する目的でスマートシステムの導入が進められていますが、その多くが効率性とセキュリティ面の課題に直面しています。
こうしたシステムは明確な方針がないまま場当たり的に導入されることが多く、その結果としてデータがサイロ化され、ユースケース間の情報交換が不可能であるなど、期待された成果が得られていないケースが少なくありません。真のスマートシティを実現するためには、自治体のリーダーらは、クラウド、エッジ、およびオンプレミスのコンピューティングを組み合わせて単一の統合システムを構築し、この最適化された安全な環境にあらゆるデータを集約する方法を考える必要があります。
絶えず変化する電力の供給能力や需要が存在する場所を把握するためには、多くの処理能力が求められます。先進的なシステムでは、どのシステムや顧客に対して電力を優先的に供給する必要があるか、あるいは必要に応じて供給を抑制できるかなど、いつどのように電力を分配するかがアルゴリズムによって決定されます。こうした仕組みを実現するには、データの保存と分析、およびグリッド機能を支えているアプリケーションの運用の両面で高いコンピューティング性能が必要です。
このようなシステムをクラウド上で運用するのは難しく、とりわけセキュリティや効率性の側面で限界があります。公共事業や政府機関など、事業分野によっては、パブリッククラウド上にシステムを置くこと自体が好ましくない場合もあります。またもう1つの問題として、スマートグリッドでは、リアルタイムで需給量を把握あるいは予測するために、センサーから膨大なデータが取り込まれています。こうしたデータをクラウドに移動して処理するのは非効率的でコストがかかり、レイテンシが発生する可能性も高まります。
Cameron氏が指摘するように「すべてのデータを中央のサーバーに送信し、そこで分析を行って結果を送り返すやり方は、多くのコストと時間を必要とします」。
その強力な代替手段となるのがエッジツークラウドのコンピューティングであり、データが存在する場所の近くで処理を行うことで、合理的なコストで迅速な処理を実現すると同時に、安定した電力供給を脅かす主なセキュリティリスクも排除できます。
同じ原則が、交通監視、廃棄物処理、公共交通機関の管理など、多くの都市に実装されている他のスマートシステムにも当てはまります。
HPEでスマートシティ担当ワールドワイドリーダーを務めるNitin Agarwal氏は、「ユースケースにおいて帯域幅やレイテンシの影響が大きくなってきたら、エッジの活用を考えるべきときです」と指摘します。
Agarwal氏が例として挙げるのが、交通状況を分析してリアルタイムで変更を加えるような、ビデオベースのアプリケーションです。ビデオ映像を処理するためには十分な帯域幅が必要であり、またリアルタイムの判断が求められるためにレイテンシの影響を受けやすくなります。このような場合に、ビデオをクラウドに送信して解析するやり方は、あまりにも効率が悪すぎます。
もう1つの例は、多くの都市が改革に積極的に取り組んでいる分野であるコネクテッドカーです。こうしたシステムは、そのリアルタイムな性質上、レイテンシのリスクを減らすことが不可欠であり、ここでもエッジコンピューティングが重要な解決策となります。
「エッジコンピューティングは、コネクテッドカーのインフラを支えるうえで重要な役割を担う可能性があります」とCameron氏は言います。「情報のリアルタイム処理が必要なコネクテッドカーは、私たちが予測する3番目に大きいユースケースです」。
セキュリティは、多くの都市リーダーがパブリッククラウドに代わる選択肢を検討しているもう1つの動機です。スマートシステムにより監視または処理されるデータの中には、より安全な場所に保管することが望ましいものも多く、オンプレミスまたはエッジコンピューティングが有望な選択肢となります。
この点についてHPEのIoT担当チーフテクノロジストであるLin Nease氏は、「どこの都市でも機密データはオンプレミスに保持され、重要性の低いデータがクラウドに送られています」と述べています。
エッジ、スマートシティ、統合されたデータ
スマートグリッドはその機能の性質上、この電力インフラを都市で開発されている他のさまざまなハイテクシステムとどのように統合できるかに関心が集まります。Agarwal氏とNease氏は、スマートグリッドをはじめとするさまざまなスマートシステムのデータを集約して、統合されたインテリジェントネットワークを構築する方法を見出すことが、スマートシティイノベーションを推進するカギになると指摘します。
「スマートシティの真価は、データの集約により生み出されます」とNease氏は言います。「重要なのはデータをどのように組み合わせるかです」。
ただし多くの場合、都市のデータはサイロ化され、システムが相互に接続されていないため、スマートシステムが持つポテンシャルが大きく損なわれています。例えば、あるシステムを使用してスマート電力メーターを実装し、別のシステムでフリート管理を行っているような場合に、この2つのシステム間でデータの共有や情報交換が行われていないケースが少なくありません。
「IoTが持つ可能性は誰もが理解していますが、課題となるのが、どこから取り組みを開始し、どのように推進すればよいかです」とAgarwal氏は言います。「AIやIoTの活用が急がれる中、多くの組織で一貫した戦略がないまま導入が進められています。その結果、個々の部門が展開している多数のユースケースのデータが集約できておらず、AIのポテンシャルが十分に発揮されていません」。
AIの真価を引き出すためには、さまざまなシステム内に存在するセンサー (交通用スマートセンサーや電力用スマートメーターなど) を、包括的なスマートシティアプローチの一部であるコネクテッドオブジェクトとして取り扱い、クラウド、エッジ、およびオンプレミスコンピューティングを組み合わせたハイブリッド型のデータ処理モデルを採用する必要があります。
「これらのユースケースを、サイロ化された環境内の個別のシステムとして運用してはなりません」とAgarwal氏は言います。「各システムから、都市のあらゆるIoTデバイスとエッジサービスを包含する単一の中央レイヤーにデータを送信し、そこでデータの正規化、集約、分析などを行えるようにすることが大切です」。
スマートグリッドはスタンドアロンの存在ではなく、各要素が接続されて情報を交換し合う、より大規模なネットワーク環境の一部でなければなりません。また、コンピューティングの効率性、スピード、およびセキュリティを確保するために、エッジを多用するハイブリッド型のリソース配置が求められます。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Katherine Gustafson
フリーランスライター、4件の記事
Katherine Gustafsonは、フルタイムのフリーランスライターであり、フィンテック、ヘルスケアIT、B2B SaaSのテクノロジーディスラプターといった、使命を重んじる変革者に、専門的なコンテンツを提供しています。また、KPMG、TD Bank、Workday、Avalara、Adobeなどの企業向けに、会計、マネジメント、イノベーションなどのビジネストピックに関する執筆も行っています。サスティナブルフードのイノベーションに関する著書があり、QuickBooks Resource Center、Business Insider、Forbesなどのさまざまなサイトや出版物にも寄稿しています。
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