2021年3月19日

生活の一部となったエッジコンピューティング

自動運転車からスーパーマーケットのロボットまで、エッジコンピューティングは私たちの日常に大きくかかわっています。

あなたがとんでもないオタクでない限り、エッジコンピューティングが日々の生活に与える影響について長時間考えることはないはずです (それは我々の仕事です)。しかし、エッジコンピューティングの影響は確実に、おそらく皆さんが気づいていない形で存在しています。

最も簡潔に言うと、エッジコンピューティングとは、処理能力、ソフトウェアサービス、データを、可能な限りエンドユーザーに近い場所に配置することです。この技術は、データパケットが数千マイルものファイバー上を移動し、光のスピードでもまだ速度が足りないような事態への対応策として生み出されました。この技術があるのとないのとでは、自分の命を救う薬が自宅の薬箱にあるのか、それとも車で薬局まで買いにいかなければならないのか、くらいの違いがあります。

データがインターネット上のサーバーからサーバーへと移動しないため、攻撃にさらされる機会が減り、侵害の可能性も低くなります。そのため、医療機器、工場ロボット、自動運転車、ウォールストリートの取引ツールなどの分野で、インテリジェントエッジデバイスが今後ますます増えていくことになるはずです。

あなたのポケットの中にあるスマートホンもエッジコンピューティングデバイスです。いつもあなたの会話を盗み聞きしているお節介なホームスピーカーや、自動車も同じです。

通信事業者が高速な5Gネットワークを展開している現在、エッジは私たちの日常にさらに大きくかかわってきます。ここでは、すでに表れているインテリジェントエッジの影響をご紹介します。

命を救う

医療においては、少しの遅れが生死にかかわります。医療機器にエッジコンピューティングが組み込まれているのはそのためです。たとえば、UCLA Health、マサチューセッツ総合病院、ロンドンのキングス・カレッジのチームは、AIによって放射線画像を分析するモバイルMRIマシンを実験的に使用し、異常を特定するのに要する時間を数時間から数分に短縮しています。エッジコンピューティングは今後、自宅での医療モニタリングや、遠隔地や地方の患者への医療サービスの提供にも幅広く活用されます。つまり、往診をしてくれるデジタルな医師のような存在です。より個人的なレベルでは、スマートウォッチやフィットネストラッカーのようなデバイスは、すでに人命を救っています。

帰宅する

高速道路を時速120キロで走っているときに、クラウドにデータをアップロードして応答を待っている余裕はありません。過去数年以内に新車を購入した場合、その車両にはエッジデバイスが搭載されています。高級車には数百個ものセンサーが搭載されている場合があり、エンジンのパフォーマンスから、前を走る車との車間距離まで、あらゆるものを測定しています。そして、実に150個もの電子制御ユニットによって、センサーが収集したデータを実用的な情報に変換しています。完全な自動運転の技術はますます進化しています。自動運転車両が搭乗者を安全に自宅まで送り届けるには、信号機、歩道、そして道路そのものに組み込まれたエッジコンピューティングデバイスが必要です。

商品を補充する

小売り業者におけるエッジコンピューティングは、在庫管理から通路の清掃まで、あらゆる業務に活用されています。たとえば、米国中西部に展開するGiant Eagle社は、回転式の、カメラを搭載したロボットを導入して店舗の商品棚をスキャンし、在庫切れの商品を特定しています。従業員はそれに基づいて商品を補充します。スーパーマーケットのStop & Shop社は、300以上の店舗で、ロボットを使用して店舗の通路にこぼれた液体などの危険物を特定しています。またGap社は、IoTカメラを使用して店舗に出入りするお客様の数を計測しています。

去年の3月、Amazon社はほかの小売りチェーンに向けて、レジが不要な自動会計システムの販売を開始しました。つまり、お気に入りのお店で買い物をして、列に並ぶことなく出ていくことがまもなく可能になるのです。デメリットといえば、万引き犯のお楽しみがなくなってしまうことくらいでしょうか。

しかし、真面目な話、万引きや内部の盗難、詐欺、人的エラー、損傷による損失を表す小売業界の用語である「シュリンケージ」は、2019年の総収益の1.6パーセント以上(620億ドル)に上りました。この数字は過去数年と比べて大きく増加しており、小売り業界はこの損失を軽減する方法を熱心に探しています。すべての商品に電子タグやバーコードを付けてもシュリンケージはほとんど軽減できなかったため、小売業者たちは、そのような損失を減らす役目をエッジソリューションに求めています。

優れたウィジェットを構築する

代表的なエッジデバイスの活用方法の1つは、産業的な利用です。たとえば、ストレージデバイスメーカーのSeagate Technologies社は、製造ラインにIoTセンサーと人工知能を使用して機器の故障をリアルタイムで予測しています。ツールが故障する前に是正措置をとることで、Seagate社は、メンテナンスのためにラインを停止する必要がなくなると同時に、潜在的な製品の欠陥も最小限に抑えることができます。鉱山の縦抗の空気品質を監視することから、自動化された工場でロボットを制御することまで、エッジコンピューティングは第4次産業革命(インダストリー4.0)に不可欠な要素となります。

食物を栽培する

家族経営の農場はもはや、昔のように風情のあるアナログな営みではありません。土壌に埋め込まれた湿度センサーが、いつどこに水をまけばいいかを農家に知らせます。ドローンが畑の上を飛びまわり、上空数百メートルから害虫による被害を特定します。妊娠中のウシに付けられたIoTデバイスによって出産時期を把握できます。スマート刈り取り機はコンピュータービジョンとAIを駆使して、耕作しながら小麦ともみ殻を分離します。帯域幅に制限がある地方エリアでは、精密な農業には5G接続とエッジコンピューティングデバイスが欠かせません。それによってデータを分析し、食物を栽培する人にとって有益な情報へと変換します。簡単に言えば、あなたの次の食事はテクノロジーによってもたらされたかもしれないのです。

お金持ちになる

アルゴリズムによってナノ秒単位で取引が成立する高頻度取引の世界では、「時は金なり」という言葉が文字通り当てはまります。価格が常に変動する中、ほんの少しの遅れによって、トレーダーには実に年間50億ドルもの損失が発生します。そのため、金融機関はインテリジェントエッジソリューションによって、リアルタイムの取引、暗号通貨のトランザクション、支払処理を管理しようとしています。また、より迅速かつ正確な不正検知を可能にしようとしています。

悪党を捕まえる

公共の監視カメラは膨大な量のデータを生成しています。そのデータをリアルタイムで分析するには、強力なコンピューティング能力が必要となります。そのため、アトランタやチューリッヒなどのさまざまな都市では、IPベースのカメラやその他のセンサーをエッジにおける分析と組み合わせ、法執行機関が犯罪の容疑者を特定できるようにしています。エッジテクノロジーを使用して交通状況を追跡し、空気汚染を監視し、エネルギーの使用を管理している機関もあります。

感動する

携帯電話の基地局に搭載されたエッジコンピューティングによって、「フォートナイト」や「コール・オブ・デューティー」などの複雑なゲームでも、モバイルデバイスで最小限のラグで遊ぶことができます。高速な5Gの基地局が急速に増えている現在、エッジによって、拡張現実が実際の現実になろうとしています。想像してみてください。現実のフィールドでクリスティアーノ・ロナウドとサッカーをすることができ、自宅の裏庭で実物大のオークと戦うことができ、リビングで最難関のスキーコースを滑り降りることができるのです。現実はもう昔と同じではありません。
現在私たちは、そのコンピューティング能力を意識すらせずに、エッジデバイスをポケットに入れて持ち歩いています。それらのデバイスの影響はますます高まっており、私たちの日常の最前線と中心にエッジが据えられることによって、世界はより新しく面白いものへと一変しようとしています。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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