産業用IoTエッジでAIはどのように機能するのか

IoT、ロボティクス、ビッグデータ、機械学習が集約されると、企業はきわめて大きなチャンスを得られますが、厳しい課題と向き合うことにもなります。

モノのインターネット (IoT) が、重工業で最も大きな期待を集めているトレンドの1つであることは意外ではありません。低コストセンサー、IPネットワークとワイヤレスネットワーク、プライベートクラウドとパブリッククラウド、高機能のエッジインフラストラクチャなど、多くのテクノロジーで機能を高めた産業用IoTの実現によって、企業が製品とサービスをどのように提供し、顧客やパートナーとどのように関わるかが大きく変わりそうです。

同時に、人工知能 (AI) の分野も革新的に変化しようとしています。長年、簡単なルールと制限のあるデータ入力を基にプログラミングされた知能のおかげで、さまざまな産業用アプリケーションの性能が向上してきました。特定の条件が満たされた後に化学洗浄中の成形部品を取り上げるロボットアームは、機能が限られた「弱い」AIの一例です。

最近、新世代の産業用AIが登場しています。これは、機械学習で性能を強化したシステムで、イベントの発生予測やパフォーマンスの最適化を行うAIのサブセットです。機械学習の重要な要素は、人の脳で考えるにはあまりに複雑な、相互に関連する大量のデータセットを短時間で処理できるアルゴリズムです。

個々のコンポーネントだけでなく施設全体の状況に関連する膨大なデータを生成する、IoTセンサーとIoTアプリケーションの能力や、数々の大規模な入力を基に知見をもたらす機械学習の能力により、AIを備えたIoTの可能性にさまざまな期待が寄せられています。

「エッジに位置する分析とIoTは、接続が難しい、または電力が問題となる環境を含む、さらに多くの産業界にIoTの性能をもたらす技術を可能にしています」。そう語るのは、Deloitte社で常務取締役を務め、新興テクノロジーとビジネストレンドを専門とするDavid Schatsky氏です。「扱うデータ量が膨大になったとすれば、そうした環境でこそ機械学習を活用できます」

IoTの「モノ」には情報が閉じ込められていると、HPEでサーバー、コンバージドエッジ、IoTシステムを担当しバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャを務めるDr. Tom Bradicichは語ります。この情報が持つ斬新で価値のある知見を解き放つことで、運用の効率化とコスト削減を実現し、安全性とセキュリティを確保できます。「IoTとモノの情報に適用されるAIと機械学習が、この新しいビッグデータのソースから得られる、ビジネス、エンジニアリング、科学に関する知見を十分に活用する次のステップの鍵になります」

Bradicichは、コグニティブテクノロジーは企業に幅広く影響を与え、その範囲は運用の場だけではないと指摘し、こう続けます。「製品、顧客、施設と常につながる環境があったら何ができると思いますか。そうした接続性によって、製品の動作や顧客の反応に対する予測分析など、コグニティブテクノロジーを応用するチャンスを得られます。それに続いて、品質保証、在庫、新製品を効果的に計画できるようになります」

 

復旧に役立つ予測メンテナンス

メンテナンスはAIを備えたIoTの利用が予想される分野です。企業は、メンテナンスとなると、動作しなくなった、または警報が鳴ったときに機器の修理に担当チームを派遣するなど、事後対応になりがちです。累積の使用量またはカレンダーの日付に従い、定期的なスケジュールでメンテナンスを実施している企業もあります。たとえば、物流会社は、半年に1度、保有車両のすべてにサービスチェックを実施し、定期的に特定の部品または車両全体を交換することがあります。

事後対応の修理と計画済みメンテナンスで問題なのは、無駄が多くコストがかさむ点です。故障した機械は、修理や交換に費用がかかるだけでなく、組み立てライン全体の停止や、それ以外では稼働の制限につながる場合があります。計画済みメンテナンスも無駄が多く、問題になっている機器に保守や交換が不要な場合でも時間やその他のリソースを必要とします。

Schatsky氏は次のように話します。「機械学習は、パターンや異常を自動的に特定するのに非常に適しています。展開された予測メンテナンスアプリケーションのほとんどが機械学習を利用しており、収集したデータを処理し、異常を示すことでエンジニアの注意を喚起し、メンテナンスや直接の対応が必要かどうかを確認できるようにしています」。

ドイツのミュンヘンに拠点を置くスタートアップ企業のKonux社は、機械学習の機能を備えた、鉄道線路の分岐器を監視するシステムを開発しました。Konux社の分岐器センサーは、既存の鉄道網に合わせて改修でき、線路の状況と車両のリアルタイムな監視を可能にします。データはKonux Andromedaプラットフォームにワイヤレスで送信されます。このプラットフォームは機械学習に基づく予測アルゴリズムによって、スタッフに特定の問題を警告するほか、メンテナンスの実施を提案します。このシステムは、ドイツの鉄道会社、Deutsche Bahn社で展開されており、メンテナンス費用を最大25%削減できるとKonux社は伝えています。 

 

重工業におけるAIの活用

エッジに位置するAIが活躍できるもう1つの機会が、ロボット機構や、自律運転可能なその他のタイプの機械を必要とする製造業の環境にあります。ロボット機器は組み立てライン、倉庫、その他の産業の環境で最先端の機能としてすでに利用され、とりわけ繰り返しの作業や危険な仕事を人に代わってこなします。

さらに、拡大する産業用IoTエコシステムでもロボットの利用が広がりを見せています。ロボットが、ネットワーク、サプライチェーンアプリケーションなどのシステムに接続されることで、効率が高まり規模も拡大します。

機械学習などのAIテクノロジーはどのような環境に適しているでしょうか。AIは、ロボットがかつて行っていた限りある仕事の範囲を越え、産業オートメーションの効果を高めます。たとえば、半自律のトラック、列車、積載機は、長年、鉱業の一部でしたが、これらは一般に、事前にプログラムされたルーチン、固定された線路、人によるリモート操作に従って動作します。新世代の鉱業テクノロジーでは、AI、GIS、GPSのデータと、プログラム可能な論理コントローラーが使用されることで、運転手のいない車両や積載機が自律的に稼働したり、最適な経路や位置決めを判断したりできます。

国際持続可能開発研究所 (IISD) とコロンビア大学のレポートによると、アルゴリズム主導型のドライバーレステクノロジーは、20%の生産高の増加、15%の燃料消費量の削減、8%のメンテナンス費用の削減をもたらす可能性があります。

さらに、鉱業環境の専用ネットワークがイーサーネットに置き換わり、産業用IoTの利用がネットワークエッジで採掘現場と処理施設に拡大されると、新しいタイプのセンサー、コントローラー、インテリジェント機器によって稼働効率がさらに高まります。こうした機器は、プロビジョニングとソフトウェアメンテナンスの観点でコスト効率を高めます。しかも、機器から得られる有益な情報によって、プラントの運用がはるかに明確になります。アルゴリズム主導型の最適化テクノロジーを使用した、多変数予測制御 (MPC) と呼ばれる鉱業用アプリケーションにより、生産高、生産能力、エネルギー効率を向上させることができます。

 

ロボットと人のコラボレーション

配備されたロボットは、作業者のケガを防ぐために厳しく隔離されますが、最先端のAIによって、人とロボットはより近い距離で一緒に仕事できるようになります。

Schatsky氏は次のように話します。「この世代のロボットは、人と一緒に働くように設計されているという点でこれまでと大きく異なります。新世代ロボットは、自身が備える、コンピュータービジョン、音声認識、センサーによる高度な分析などのAIテクノロジーを利用できます。また、すべてのこうしたロボットの目標は、人の環境に配備するための安全性の確保です」

MITのロボット工学とAIの研究者、Claudia Pérez D'Arpino氏は、ロボットと人を同じ職場に共存させる場合には、10年前には考えもしなかったまったく新しい機能が必要になると語ります。また、ロボットには、人と一緒に安全に働く能力だけでなく、効率良く働く能力も要求されると指摘します。

「製造業では、1秒たりとも無駄にはできないので、人と共同作業する動作が非常に遅いと、ロボットは役に立ちません。ロボットは共同作業を要求されますが、自身の仕事を時間どおりにこなす必要もあるのです」とD'Arpino氏は話します。

D'Arpino氏らは、C-Learnと呼ばれる機械学習システムを開発しています (Cは「constraints (制約)」を意味します)。このシステムの目標は、プログラミングなしにロボットをトレーニングし、コンポーネントの組み立てや金属片の溶接など、特定の産業の仕事をさせることです。仕事はロボットからロボットに引き継ぐことができます。別の国の組み立てラインなど、異なる環境への引き継ぎも可能です。

この取り組みは、産業オートメーションが大幅に向上することを意味するとD'Arpino氏は語ります。「現在、ロボットに仕事を教えるトレーニングのコード化には、1か月かかります。それを成功させるには、この作業を何年も続けるしかありません」。同氏は、AIを備えたロボットの利用が、これまで産業用ロボットではコスト効率が良くなかった、頻繁な変更を要する製造業の分野で広まると予測しています。

 

エッジとクラウドでAIを比較する

AIを備えたIoTとロボット機構によって製造業に新たなパラダイムが形成されると、ITインフラストラクチャはどう機能するのかと疑問がわきます。AIには、高機能クラウドのストレージとコンピュートリソースが必要でしょうか。あるいは、工場の現場、または工業用の処理が行われているリモート施設に同様のシステムを分散すべきでしょうか。

その質問の答えは、場合によって異なります。特定の種類のセンサーやデバイスが、クラウドからのデータやコマンドを待つ余裕がないのは明らかです。レイテンシや処理の遅れは安全上またはパフォーマンスの問題になりかねないからです。現場全体で部品を積載する自律走行車は、どの経路を選ぶべきか、部品をもれなく積んだり降ろしたりするのに最適な自分の位置はどこかを即座に判断しなければなりません。AIを備えた製造業ロボットも同様に、自身が捉えたリアルタイムなセンサーデータだけでなく、近くの機器から得たデータを高速に処理することで、パフォーマンスを最適化し、特定の仕事をこなし、そばにいる作業者の怪我を防ぐ必要があります。

何百ものロボットとIoTデバイスが連携して稼働している場合、エッジインフラストラクチャの要件はきわめて厳しくなります。IDCによると、IoT由来のデータの少なくとも40%が、2019年までに、ネットワークエッジまたはその付近で、保存、処理、分析されたり、そうしたエッジに影響を与えたりします。

一方で、クラウドサービスは、システム全体でのパフォーマンスの評価、何千ものセンサーとIoTデバイスから投入される大量データの保存、アーカイブデータに基づいた有益な情報の検索などを行う場合に現実的な選択肢となります。

「複数の施設全体を把握できるようにする場合、クラウドは最も便利です。個々の機器に対するトラッキング、監視、診断をエッジの近くで行うのは理にかなっていると思います」とDeloitte社のSchatsky氏は話します。

費用面で、コンピュートとストレージをエッジに配置するのが好ましいと考えられる点が、他にもあります。大量のrawデータを遠方のデータセンターまたはクラウドサービスに送信する場合、ローカルで処理する場合よりも多くの時間と電力が必要です。バッテリ駆動のIoTデバイスではこれにより大きな懸念が生じます。有用性を高めるために電力を節約する必要があるからです。

Konux社は、AIを備えたシステムを開発し、ドイツの鉄道システムに関する洞察を得られるようにしましたが、データを前処理してクラウドベースのAIにワイヤレスで送信するセンサーも開発しました。これにより、センサーのバッテリ寿命を2年まで延長できると同社は伝えています。

 

AIによって産業の問題がすべて解決できるとは限らない

AIを備えたIoTとロボットによって、工場の現場やリモート施設の問題をすべて解決できるわけではありません。Schatsky氏はこう語ります。「AIが最適な分野もあれば、適さない分野もあります。あらゆるテクノロジーへの投資と同様に、AIについても、実際のビジネスケースに基づいて判断する必要があります」

ある産業の場で、AIがどのように真の利益をもたらすかを評価する場合、企業は、収益を得られる可能性が最も大きいアプリケーションを重視すべきだとSchatsky氏は助言します。これには、きわめて非効率と見られている業務やプロセス、または、運用改善に役立つ知見となり得る大量のデータを生成可能なアプリケーションも含まれます。

HPEのBradicichは、企業がAIの評価とパイロットの実施に効果的に取り組めることを指摘し、次のように続けます。「制御された小規模なテストユースケースの適用、アプリケーションを対象とするエキスパートの関与、しっかりとした実績のあるベンダーとの提携によって、企業は、ROIを数値化し、AIと機械学習の利益に関するリスクを最小化できます」。  また、その結果が肯定的であれば、「各ステップ後にROIを数値化しながら規模を徐々に拡大していくことで、成果を得られるようになります」と付け加えます。

MITのD'Arpino氏は、AIを備えたロボットを産業の場で使用することにより得られる潜在的な利益に関して一部で期待が高まっているが、そうしたテクノロジーで何が可能になるかについては、誤解も多いと指摘します。「報道で流れるストーリーや映画の影響で、ロボットは何でもできるし、私たちと同レベルの認知処理の能力を持つようになると思っている人もいますが、それは正しくありません。私が生きている間にそうなることはないでしょう」。

  • AIとIoTに関する リーダーのためのアドバイス
  • AIは、ロボットがかつて行っていた限りある仕事の範囲を越え、産業オートメーションの効果を高めます。
  • 機械学習は、パターンや異常を自動的に特定するのに効果的です。
  • あらゆるテクノロジーへの投資と同様に、AIについても、実際のビジネスケースに基づいて判断する必要があります。

 

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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