2019年1月17日

職場で活用される外骨格

今再び、テクノロジーが人体の可能性を広げつつあります。出力増大、運動エネルギー貯蔵、そして作業者が不自然な姿勢になったときに必要に応じて身体を固定し、静荷重を分散することが可能な「拡張関節」など、身体拡張をビジネスで活用できるよう最適化された技術が数多く生み出されており、実在のトランスフォーマーによるビジネストランスフォーメーションが起きています。

デジタルテクノロジーは、人間の作業者の潜在生産力を急速に高めましたが、身体活動に関しては、肉体的な制限がその可能性を狭めています。人間は、身体を大きく損傷するリスクを負うことなく、非常に重いものを持ち上げたり、長時間にわたって同じ姿勢を保ったりすることはできませんが、今再びテクノロジーが活用され、人間は身体の限界を超えた作業を安全に行えるようになりつつあります。

現実はフィクションに追い付くのが普通です。1970年代のTVシリーズである「600万ドルの男」は、科学によって人間の「能力、強さ、スピード」を向上させることができると主張するタイトルシーンで始まるものでしたが、今ではテクノロジーを活用することにより、実際に人間の能力、強さ、およびスピードを向上させる方法で身体機能を増強することが可能です。そしてこのような増強のための主要なアプローチの1つとして、外骨格が活用されています。

他の哺乳類と同様、人間は体内に耐力構造(骨)を有しています。ただしこれは、動物だけに備わっているものではなく、虫や甲殻類は、生物学者が「外骨格」と呼ぶ、硬い殻の形をした「骨」を体の外にまとっています。人体の力を増強するにあたっては、骨に沿って何かを埋め込むより、胴や手足の外側にデバイスを取り付ける方がはるかに簡単なため、多くの研究者は、外骨格で力を増大させることに重点を置いてきました。

外骨格に関する研究の多くは、機能障害を補う目的で行われ、目覚ましい成果をもたらしてきました。動力義手は、物体をつかんで操る人間の能力に取って代わり、義足は、麻痺のある人が再び歩くことを可能にします。

ただし、健康な人の力を増強するテクノロジーの方がはるかに市場規模が大きく、投資収益率もかなり高くなる可能性があります。企業における外骨格の活用は、製造業以外でも急激に増加しており(製造業のユースケースには大きな関心が寄せられていますが、アメリカ国立標準技術研究所の報告によると、最初の合意標準を策定したASTMの委員会では、23の民間企業、14の大学、および9の政府機関が代表を務めています)、こうしたテクノロジーの開発の多くでは、驚くべき側面の1つとして、重いものを扱う作業者をサポートするのではなく、疲労を軽減して職場でのけがを防ぐことに重点が置かれています。

労働安全衛生局(OSHA)によると、直接労働者のけがや病気の補償費は、米国だけで1週間に約10億ドルに達しており、生産性の損失や(さらなるトレーニングが必要な臨時労働者の雇用といった)その他の間接費は、年間2,500億ドル超にまで増加しています。多くの企業がこうした費用の削減に役立つテクノロジーに積極的に投資しているのは、何ら驚くことではなく、外骨格デバイスは、いずれも4桁から5桁のコストがかかるものの、コスト分析の結果から、それらの導入がどれだけ進められる可能性があるのかは想像に難くありません。

 

万能のソリューションは存在しない

外骨格は、すでに全世界の企業でさまざまな種類のものが使用されており、開発も多く進められています。この用語からは、映画「エイリアン」に登場するリプリーが装着していた巨大なパワーローダーを思い浮かべるかもしれませんが、現在では幅広いソリューションが存在し、そのいくつかは、パワーローダーと比べると驚くほど控えめです。

ここでは、その可能性を知るのに役立つ方法の1つとして、それぞれの製品を差別化する重要な設計に関する決定のいくつかを考察していきます。

 

フルボディかパーツか

図1. Guardian XOは、未来的な外見をしたフルボディの外骨格 (クレジット: Sarcos Robotics社)

「エイリアン」の外骨格は、基本的に人間のパイロットが乗り込むフルスケールのロボットでしたが、今日の実際のソリューションのいくつかも、足、胴、腕を拡張するように設計された、同じようなフルボディの形態になっており、たとえば、Sarcos Robotics社のGuardian XOは、腕と足を補助します。同社のWebサイトによると、このデバイスは「間もなく」出荷される予定となっており、最新のバージョンには、甲冑のような装備も含まれています。

もう1つのアプローチは、身体の必要な部分だけを拡張するもので、わかりやすい例としては、suitX社の製品が挙げられます。同社は、ShoulderX、BackX、LegXという3つのコンポーネントを提供しており、その名前から推測できるように、各ユニットはそれを装着した人の身体の一部を拡張します。必要な場合は、これら3つのパーツを組み合わせてフルボディのソリューションにすることが可能です。

荷重支持か荷重シフトか

もう1つの重要な設計の違いは、作業負荷をどのように扱うのかという点です。いくつかのケースでは、外骨格がその構造体ですべての荷重を支えますが、作業者の身体の他の部分に荷重を再分配する設計のデバイスもあります。

たとえば、Audi社とBMW社は、Noonee社のChairless Chairの活用方法を検討してきました。Chairless Chairは、作業者が自由に歩き回ることができるよう足の後ろに取り付けるフレームで、作業者は、作業を行うためにしゃがまなければならなくなったときに、その場所にChairless Chairを固定して荷重を直接床に移動させることができます。これにより、疲れたりけがのリスクを負ったりすることなく、長時間にわたって不自然な姿勢を維持することが可能になります。

一方、German Bionic Systems社は、Cray Xという背中を支えるパワースーツを開発しました。Cray Xは、肩、腰、および大腿部に装着する外骨格で、物を持ち上げたときに荷重を分散し、腰にかかる負担の一部を取り除きます。

 

拡張か置換か

この他にも、設計に関しては、作業者の身体の一部を拡張するのか、ほぼ個別に使用できる四肢を追加するのかを検討する必要があります。たとえば、肩より上に工具を持って繰り返し使用していると、比較的軽量の工具であっても、それが身体を痛めたりけがをしたりする原因になることがありますが、Ekso Bionics社は、両方のアプローチを取り入れた製品を提供しています。

EksoVestは、上腕にも外骨格を取り付ける(10ポンド未満の)軽量のバックパックです。バネを利用して頭より上に工具を持ち続ける作業者をサポートするEksoVestは、5~15ポンドの工具を念頭に置いた設計になっており、Ford社では15の製造工場でEksoVestを使用しています。

一方、第3の腕となるEksoZeroGは、作業場の足場などの構造物に取り付ける外骨格で、重い工具を使用する作業者をサポートします。EksoZeroGは、重さ36ポンドまでの工具に対応しており、作業者は工具を操作するだけで済むようになります。Ekso Bionics社によると、EksoZeroGを使用することで作業者は工具の重さをほとんど感じなくなり、疲労やけがのリスクが軽減されます。

 

硬い構造体か軟らかい構造体か

「エイリアン」に登場したパワーローダーを振り返ると、私たちは、オートクチュールというよりスチームパンクのような重金属でできた油圧式の外骨格を思い浮かべがちですが、外骨格の設計に関しては、硬い構造体にするのか軟らかい構造体にするのかについても検討することが重要です。

 

上記の他のデバイスのように、フランスのRB3D社が提供する開発プラットフォームであるHerculeは、フットプレートが付いた腰の部分をサポートする硬い構造体を2本の足に取り付ける仕組みになっており、動力付きのデバイスによって最大88ポンドの荷重を支えると同時に、1時間に3マイル速く歩くことができるようになります。

一方、人間の身体能力を増強する設計の軟らかいデバイスもあります。Bioservo Technologies社のIronhandは、長時間にわたって作業者の握力をアップさせることができるグローブで、使用する工具と目的の作業に合わせて力量を調整することが可能です。電源が搭載されたIronhandのバックパックには、人間の手につながる腱の仕組みに似た、グローブの指に接続された細い線を引っ張るモーターが内蔵されています。

 

能動的か受動的か

外骨格ソリューション間のもう1つの重要な違いとして、それが能動的であるか受動的であるかという点が挙げられます。能動的なデバイスは、力を増強するアクチュエーターにエネルギーを供給するために外部の電源を使用します。こうしたデバイスでは、電動モーター、空圧、油圧、さらには電気で動く人工筋肉を利用できます。

図2. Lowe’s社は、従業員が腰を曲げたときに運動エネルギーを蓄積し、物体を持ち上げるときにそのエネルギーを利用できるようにするバックパックを開発しています。(クレジット: Lowe’s社) 

受動的なデバイスは、これとはアプローチが異なり、装着者の動きを捉えてエネルギーを蓄積し、作業を行わなければならなくなったタイミングでそのエネルギーを放出します。受動的なデバイスの好例としては、Lowe’s社がバージニア工科大学と共同で開発している外骨格が挙げられます。これは、デバイスを装着する作業者の大腿部にまで伸びるバックパックで、作業者が物体を持ち上げるために腰を曲げたときに、背中側に取り付けられたトーションバーがエネルギーを蓄積します。このエネルギーはその後、物体を持って荷重が増えた作業者が立ち姿勢に戻るのをサポートするために放出されます。これに関しては、基本的に物体を持ち上げるときに腹筋を使用することになります。

 

開発が続く外骨格

この他にも、職場での外骨格の価値をさらに高める可能性がある新たな設計が生まれようとしています。Ironhandを含むこれらのシステムのいくつかは、使用中にデータの収集も行っており、こうしたデータからは、エルゴノミクス分析や作業者をけがのリスクにさらす状況の特定に役立つ情報が得られます。

また、これらのデバイスの多くは、「正しい」動きをしなければならなくなるように動作を制限することで、作業者がより安全に作業を行えるようトレーニングするのにも役立ちます。外骨格は、トレーニングにおいてさらに大きな役割を果たすようになる可能性もあり、たとえば、Teslasuitには、装着者の身体にフィードバックを行うハプティックデバイスが搭載されています。いくつかの調査研究によると、人が新しい作業について学習するときに触覚フィードバックを加えると、習得までの時間を短縮し、パフォーマンスを向上させることができます。

Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied and Sciencesの研究者は、被験者が軟らかい外骨格を装着してさまざまな作業を行うときに、心拍数や呼吸数などの人間の生理学的信号を測定していますが、これらの情報は、作業中に外骨格スーツから補助力を加えるタイミングと場所を設定する際に使用されました。ある研究において、20分間データを収集しただけで作業の代謝コストが17%削減された例もあるように、外骨格を「スマート」にすれば、それらの効率がさらに向上する可能性があります。

外骨格はまだ非常に高額なため、コピー用紙が入った箱を動かすためだけに手元に置いておけるようなものではありませんが、このテクノロジーは、身体運動が作業の大部分を占める企業の業務での活用が広がっていく可能性があります。そして本当に、私たち全員の能力、強さ、スピードが向上するかもしれません。

 

外骨格: リーダーのためのアドバイス

  • 外骨格は、幅広い設計でビジネスや業界に固有のニーズに対応しています。
  •  価格表を表示するのではなく、「デモをご依頼ください」と書いてある企業のWebサイトの数からもわかるように、このテクノロジーは高額かもしれませんが、勤務中のけがのコストを考えると、投資収益率に優れていると言えます。
  • 外骨子はスマート化が進み、用途も広がっていますが、それが作業者の疲労の軽減や危険な作業の削減につながっています。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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