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2022年1月14日

エクサスケールコンピューティング: その概要と可能性

スーパーコンピューターにより、以前は不可能だったことが次々と実現可能になっています。

この半世紀間、スーパーコンピューターは想像しうる限りの最も未来的なタスクをこなしてきました。SF作家が想像力を最大限に発揮して書いたシナリオを実現するか、それを上回ってきたのです。核実験のシミュレーション、人間の脳のマッピング、より高性能で安全な車の開発、映画のための息をのむようなグラフィックの作成、自動運転車にゴミ箱とベビーカーの違いを教えることなどにスーパーコンピューターが役立ってきました。

そして今、スーパーコンピューターは新しい時代に突入しようとしています。最初のペタスケールシステムの登場から10年で、エクサスケールレベルで計算可能な初めてのコンピューターが政府のラボに導入されようとしています。

エクサスケールのコンピューターとは、1秒間に100京、または10¹⁸回(10の18乗)の浮動小数点演算 (FLOPS) を行えるコンピューターです。これは10億の10億倍、つまり1,000,000,000,000,000,000回ということです。この数字を想像してみてください。天の川銀河の幅は100京キロメートルです。また、100京ガロン (1ガロンは約3.8リットル) の水がナイアガラの滝を落ちるには40年かかります。さらに、エクサスケールのスーパーコンピューターが1秒でできる計算をするためには、地球上のすべての人間が24時間休まず、4年間計算する必要があります。エクサスケールコンピューティングの概念を数字で考えると、気が遠くなってくるはずです。

この処理能力をさまざまな業界で最大限に活用することで、現在および将来の問題を解決できます。一方で、優にペタスケールの能力に達している現在のシステムによって、10年前なら不可能だったことがすでにできるようになっています。

タスクにかかる時間を2時間から10秒に短縮することで、研究者は科学的発見と分析に全力を投入することができます。
かつては大学や大規模な国立研究所のものだったスーパーコンピューターが、民間企業によって、基礎科学の領域を超えて活用されるようになってからしばらく経ちます。石油探索、金融、パーソナライズされたコンテンツ配信、オンライン広告などの業界は、高パフォーマンスコンピューティング (HPC) システムを導入して巨大なワークロードを管理し、リアルタイムでサービスを提供しています。

エクサスケール時代に新たに注目を集めているのは、人工知能の登場です。さまざまな業界で、ますます多くのAIが導入されつつあります。AIは大量のデータを処理し、システムをトレーニングしています。HPCとAIを組み合わせることにより、産業界はより大規模で、優秀で、精密なモデルをトレーニングできます。

エクサスケールコンピューティングへの移行によって、探求、仮定、代替案、可能性に関する疑問への回答を探す、一見終わりのない旅に乗り出すことができます。以下にその例を示します。

  • 顕微鏡 (Cryo-EM)、散乱源 (CERN)、光源 (SLAC) のサブ原子スケールの観測結果にズームインし、エクサバイト規模のデータから構造と特性を把握する。また、1平方キロメートルにおよぶ天体望遠鏡群 (SKA@Pawsey) にズームアウトし、宇宙の彼方で起こっている事象を調査する。
 
  • 超伝導特性を持つ物質や、新しい病気、稀少疾患の治療薬になり得る新しい原子構造の仮説を立てる。
 
  • ハリケーンの軌道を予測したり、気候変動に影響を与える大気、海、陸、人間の不確定な挙動を定量化したりするために、アンサンブルシミュレーションを実施する。
 
  • 50年分の天候データと100年分の物理学の知識から、15分単位の異常気象を予測する。あるいは、異種間のウィルス感染を予測して次のパンデミックを避ける。

研究者が病気の治験を行っているラボで、エクサスケールのコンピューティングにどのようなことができるか想像してみてください。これらのマシンは、初代のペタスケールコンピューターの1,000倍の性能があります。数週間の処理時間を数日に、数日の処理時間を数分に短縮できます。より多くのソースからのインプットをつなげて組み合わせ、より強力なモデルを作成し、より頻繁なシミュレーションを実行して正解を模索することができます。チームはフィードバックを数週間待つ代わりに、例えば、1つの薬剤の配合を追求するかどうかをほんの数時間のうちの決めることができます。

アラバマ大学ハンツビル校 (UAH) 、サウスカロライナ州立医科大学 (MUSC)、ミシシッピ州立大学オックスフォード校の研究チームは、新型コロナウィルスに対してそれを実践しました。HPCを使用して、以下のようなさまざまな疑問への答えを見つけたのです。新型コロナウィルスの3D構造はどのようなものか。SARS-COV-2は他のコロナウィルスとどのように違うのか。天然の物質でウィルス感染症を治療できるか。新型コロナウィルス感染症の治療と予防には他に何が役立つか。より感染力の強い変異株に対しては何ができるか。

UHAのJerome Baudry博士は、Cray社のSentinelスーパーコンピューターを使用した分子動力シミュレーションによって、新型コロナウィルスのたんぱく質に対する薬剤配合のバーチャルスクリーニングを行いました。MUSCのYuri Peterson博士は、PharML.Bindと呼ばれるニューラルネットワークモデルを共同開発し、新型コロナウィルスに対して再利用できる既存薬の候補を評価しました。MUSCとヒューレット・パッカード エンタープライズは、その研究をオープンソース化しました。Christopher Rickett氏、Kristi Maschhoff氏、Sreenivas Rangan Sukumar氏は、生命科学のナレッジグラフを使用して、新型コロナウィルスのたんぱく質を4百万種類以上の病原体のたんぱく質配列と比較し、ターゲットプールを広げることで、新型コロナウィルスの疾患標的を変更する分子を発見できる可能性を高めました。研究の途中、彼らは通常とは異なるデータポイントに気づきました。新型コロナウィルスに晒された人で、破傷風の予防接種を打ったことがある人は、症状が出なかったり軽症だったりしたのです。この発見は『Medical Hypotheses』誌に発表されました。

新型コロナウィルスに関して利用できる資料が大量にあったことは、研究者にとって大きな課題となりました。新型コロナウィルスの重要なスパイクタンパク質と照らし合わせる既知のたんぱく質は数百万種類あり、処理する必要がある医学的データを合わせると30テラバイトを超え、発見の鍵となるかもしれない出版物は無数にあり、分析に利用できる医学知識のファクトは1,500億個以上ありました。人間には、これほどの量の情報を処理することはとてもできません。また、1つの標的分子のたんぱく質構造と薬剤の作用をモデル化するのに数か月かかる可能性がありました。スーパーコンピューターを使用して分子を数秒で評価できたため、チームは、早期対応プロジェクトを前に進めることができました。

エクサスケールのコンピューティングによって、科学者はより速く研究を行うことができるため、ブレークスルーを達成できます。しかし、スピードはほんの始まりにすぎません。かつてよりもけた違いの速さでモデルを生成できるため、エクサスケールによって、科学が実践される方法そのものが変わる可能性があります。

タスクにかかる時間を2時間から10秒に短縮することで、研究者は科学的発見と分析に全力を投入することができます。一度現場を離れて数時間、あるいは数日後に戻ってくるのではなく、イノベーションと試行錯誤を続けることができるのです。チームはより速く新しい情報を取り入れ、より多くのソースを利用し、より多くのシナリオをテストしながら、常にパズルの次のピースに目を据えることができます。

処理能力がより高いことは、すべての業界により革新的なソリューションがもたらされることを意味します。金融サービス業界では、時は金なりと言われます。エクサスケールで稼働するスーパーコンピューターでレイテンシを低減することで、金融取引において優位に立つことができます。製造業界では、高性能のシステムによって、新しい3Dプリントの素材が毎日の温度と圧力の変化に耐えられるかどうかを判断できます。海運業界では、エクサスケールのコンピューティングを使用して、水温、風向き、政治的要因、相場などを基にして経路を確定できます。

高パフォーマンスコンピューティングの世代が新しくなるたびに、設計の課題は大きくなっていきます。それでも、エクサスケールはコンピューターが到達する最後のマイルストーンではありません。高パフォーマンスコンピューティングには強い勢いがあり、AI駆動アプリケーションへの需要はさらに高くなっています。

リーダーへのアドバイス

  • 高度な分析にかかる時間を2時間から10秒に短縮することで、以前は考えることもできなかった科学的研究の道を追求することが現実的になります。
 
  • 最速のスーパーコンピューター上で実行することで、機械学習などのコンピューティング能力を多用するタスクのパフォーマンスが最大になります。
 
  • 高パフォーマンスコンピューティングは長らく科学的計算に使用されてきましたが、ここ数年来、石油探索、金融、オンラインセールスなどの業界でも活用されるようになっています。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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