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2019年1月17日

ESG投資(環境、社会、企業統治への投資): ITリーダーが知っておくべきこと

IT部門は、機関投資家にとって重要な基準となる、企業の環境、社会、およびガバナンスに対する影響の面できわめて重要な役割を果たすことができます。データアクセスの向上、環境に対する影響の低減、プライバシーとセキュリティ制御の強化などは、機関投資家が新たに投資を行うときに確認するポイントのほんの一例にすぎません。この記事では、ITリーダーが知っておくべきことについて説明します。

金融の世界では、少し前まで健全な利益を生むことと「責任ある」投資戦略は相反するものであるというのが一般的な考えとされており、金融のプロフェッショナルは、(現在総称してESG投資と呼ばれている)環境に対する影響、社会的影響、またはガバナンスの要因を考慮に入れて投資対象の範囲を狭めると、市場で成果を上げるのが難しくなると考えていました。

しかし、今ではそのようなことはなくなり、多くの投資家は、持続可能な投資が主流になりつつあること、そしてそれが従来の投資と同等の、また場合によってはさらに大きな利益をもたらす可能性があることを認識しています。現在では、ESGの原則に従って全世界で約23兆ドルの資産が投資されており、そうした資産の大部分はヨーロッパに集中していますが、米国でも持続可能な投資が増加しています。ESGの原則に従った投資は利益にマイナスの影響を及ぼすという、かつて受け入れられていた考えは、現在いくつかの調査で否定されており、Harvard Business SchoolのGeorge Serafeim教授が行った調査では、長い目で見れば、環境パフォーマンスや社会的成果を向上させることで業績や株主の利益にプラスの影響がもたらされる可能性があるということがわかりました。また、Barclaysが行った別の調査では、投資のプロセスにESGファクターを導入することにより、「わずかながらも安定して」利益が得られることが明らかになりました。

 

IT部門がESGに注意を払うべき理由

投資家にとってESG基準がさらに重要になりつつある中、IT部門はESGに特に注意を払わなければなりません。エネルギー使用量、労働慣行、製造プロセスが環境に与える影響、プライバシーとサイバーセキュリティなどの問題は、投資ポートフォリオ内のESGのリスクに目を向ける機関投資家が特に注視するポイントとなっていますが、IT部門は、これまで十分なサービスが提供されていなかった遠隔地域での情報、金融、または医療サービスへのアクセスを向上させることで社会に貢献できるため、ESGにおいてプラスの役割を果たせます。また、テクノロジーやイノベーションの賢明な利用が、最も大きな環境の問題を解決するうえでの重要なポイントになることは間違いありません。

ESGについては、グローバル経済におけるテクノロジーの役割が広がり続けているという点からも真剣に受け止めなければなりません。ITの世界では、価格の下落と急激なイノベーションに伴って支出が急増しています。IT支出は、長年GDPより速いペースで増え続けており、IDC社は、デジタルトランスフォーメーションプロジェクトにおけるIT支出が2017年から42%増加し、2019年末までに全世界で1.7兆ドルに達すると予測しています。デジタルトランスフォーメーションは、医療、金融サービス、小売などの業界を急激に変えつつあり、今後機械学習やAIなどの新しいテクノロジーによって、多くの企業が、たとえばエネルギーシステムを改良してより効率的に排気を減らすなど、ESGに積極的に貢献できるようになると思われますが、こうしたテクノロジーは、AIのアルゴリズムに意図せず自動的に偏見が組み込まれてしまうなど、ESG関連のリスクももたらします。(登録不要)

 

人口統計の変化

もちろん、持続可能な投資は今に始まったことではなく、これまでは一般的に、倫理的価値観からギャンブルやタバコの販売などに携わる企業や業界への投資を避ける、社会的責任投資(SRI)と呼ばれるアプローチを意味していました。また同様に、1960年台にはベトナム戦争が原因で一部の投資家が武器関連の投資を減らしたり、1980年台にはファンドがアパルトヘイト時代の南アフリカに対する投資を避け始めたりなど、その狙いは、外部不経済のリスクを軽減することにありました。

持続可能な投資は現在、単に企業を排除するだけではないものへと進化し、倫理の面で考えなければならないことは残されていますが、多くの投資家が、企業のリスク要因に対する理解を深めるための手段として、従来の財務分析とともにESGファクターに注目しています。また特に、日頃から持続可能な投資のためのソリューションを求めている、ミレニアル世代の投資家の間では、職場における社会規範と人口統計が変わりつつあります。

たとえば、2017年にEquifax社で起きたデータセキュリティ侵害について考えてみましょう。投資指標を提供するMSCI社は、2016年8月にEquifax社のESG評価を最低とし、同社のデータセキュリティおよびプライバシー対策が不十分であることを投資家に警告しました。その後2017年9月に、Equifax社はサイバー攻撃の被害に遭い、米国の数百万人のコンシューマーの機密データが漏洩した可能性があることを認めました。その発表の後、同社の株価は数日で30%以上も下落しましたが、多くの投資家はMSCI社の警告に従ったことで損失を回避することができたのです。このような例から、ESG関連の問題が受託者責任に欠かせないものであり、ポートフォリオへの追加を検討している企業のリスクをより深く理解したいと考えている投資家にとってのもう1つのデータポイントとなることは明らかです。

人口統計もESG投資の主な推進要因になっており、多くの調査の結果から、女性だけでなくミレニアル世代のグループによる投資も増えていること、さらには投資ポートフォリオとその価値が一致していることを確認するための手段が必要とされていることがわかっています。そして今後20~30年の間に、ミレニアル世代による米国を支払い場所とするESG投資の額は、米国の株式市場の約2倍の規模に相当する15兆~20兆ドルになる可能性があります。

また、5年前にサステナビリティレポートを作成していた民間企業は4分の1程度でしたが、今ではその数が80%を超えるまでになっており、私たちは、企業の取締役会がESGのアカウンタビリティを求め、自社の株価に対するESGの潜在的な影響を懸念する時代を迎えつつあります。

 

分析の質の向上

ESG投資を増加させている別の要因として、企業が提供するデータの質とESGの調査および分析機能の向上が挙げられます。そしてこれが、ESGの主要な問題を解決するためのより体系的、定量的、客観的、かつ財務的に重要なアプローチの実現につながっています。企業がESGデータを測定、報告、定義する方法に関しては、引き続き標準化を進める必要がありますが、データと分析のレベルが向上したことでESG投資に関する多数の調査が行われるようになり、現在では、Moody’s社やS&P Global社などの大手信用調査企業が信用格付けにESGデータを取り入れています。また、Bloomberg社などの大手投資サービス企業は、投資アナリストに提供する情報にESGデータを組み込んでおり、どの投資家もDow Jones Sustainability Index (DJSI)などの主要な格付けに注意を払っています。DJSIはグローバルなサステナビリティ指標であり、誇らしいことに、Hewlett Packard Enterpriseはこの指標において常に非常に高いスコアを獲得しています。

投資家は、サステナビリティの取り組みを強力に進める新しい企業を見つけることに力を注ぐとともに、実際のところ企業に対してESGスコアを上げるよう働き掛けていますが、このようにしてESGに重点を置く企業への投資を増やせば、コーポレートガバナンスが強化され、持続可能な投資ポートフォリオによる利益を永続的に得られるようになる可能性があります。

議決権行使助言組織のInstitutional Shareholder Services社のデータインテリジェンス部門であるISS Analyticsによると、2018年の株主総会シーズンに出された株主提案は、半数以上が環境や社会への懸念に関するものでしたが、このような提案の増加は、Exxon Mobil社などのエネルギー分野の巨大企業で気候リスクに関する提案が過半数の票を取った2017年に見られるようになりました。そしてその決議の結果、気候変動がビジネスにもたらす影響を毎年公表する体制を強化することが求められています。

一部の有力なウォールストリートの投資家は、企業に対して圧力もかけており、BlackRock社のCEOであるLarry Fink氏は、1月にCEOに向けた2018年の書簡を公開し、12月末時点の管理資産が6.29兆ドルに達する世界最大の資産管理会社である同社が、社会に積極的に貢献しておらず、ESGを長期的な価値の創出につなげられない企業を今後支援しないことを通告しました。

Fink氏の書簡は、米国におけるESG投資を大きく前進させ、もはや資産管理会社がESGをニッチな投資戦略と考えてはいないということを示すものとなりました。実際、Ernst & Young社が2016年に実施した機関投資家の調査では、投資家の75%超が、管理されていないサプライチェーンのESGのリスクや気候変動に伴うリスクなどの問題に基づいて、投資決定を見直すか取り消すつもりであるということがわかりました。

Fink氏やBerkshire Hathaway社のWarren Buffett氏をはじめとする投資家は、長年にわたって長期的な投資のアプローチを提唱してきました。従業員の補充、忠実な顧客、責任ある環境活動などが、次の四半期の業績の向上につながることはないかもしれませんが、それらは長期間にわたる着実な成果をもたらす可能性があります。

 

ROIの向上

企業レベルでの活動は、言うまでもなく重要なポイントとなります。たとえば、物流業界の巨大企業であるUPS社は、On-Road Integrated Optimization and Navigation (ORION)と呼ばれるフリート管理システムを開発しましたが、同社はこれが自社の事業分野における競争上の差別化要因になると見ています。ORIONは、ビッグデータを使用して配送ドライバーに最適なルートを示すことで走行距離、燃料、およびコストを削減する仕組みになっており、2013年にORIONを導入して以降、同社は走行距離を2億1,000万マイル、燃料を1,000万ガロン、CO2排出量を21万メートルトン削減することに成功しました。同社は今後、毎年走行距離を1億マイル、CO2排出量を10万メートルトン削減できると予想しています。

またESGは、UPS社などの企業が、ESGにプラスの影響をもたらす革新的な製品を市場に投入して運用効率を向上させる活動を推進する要因になっているようにも思われます。Campbell Soup社とVerizon社が後援する「Project ROI」調査によると、ESGの原則に従えば、売上高を20%増やすとともに顧客満足度を10%以上向上させることができるうえ、従業員の離職率を50%低下させることが可能になります。これとは別に、INGが米国に拠点を置く金融機関の210人のエグゼクティブを対象に実施したインタビューでは、売上高の増加がサステナビリティの活動を推進する主な要因になると考えているエグゼクティブの割合が43%だった一方、サステナビリティの取り組みによって過去12か月間である程度売上高が増加したとする割合が87%に達することがわかりました。 

 

ESGのリスクの特定

サステナビリティが取締役会レベルの議題として取り上げられるようになる中、企業のリーダーは、どのようにすれば気候のリスク特性を明らかにし、それを財務報告書に組み込むことができるのかという疑問を抱いているのではないかと思いますが、Financial Stability Boardは、このような疑問を念頭に置いて2015年にTask Force on Climate-Related Financial Disclosures (TCFD)を立ち上げました。このグループはその後、気候関連の問題に関して、資産評価、資本配分、およびリスク管理をより正確に行えるようサポートするための一連の推奨事項を示してきました。これらの推奨事項は、企業がESG関連のリスクによってもたらされる可能性がある財務的な影響を特定して公表できるようサポートすることを目的としており、公表された情報は、投資家がより正確にリスクを評価し、そのコストを算出するのに役立ちます。

ただし、こうした推奨事項に対する支持が増える一方、企業がそれらを実行可能な戦略に変えるにはどうすればよいのか、という疑問も増えつつあり、CDP社とMarsh & McLennan社のGlobal Risk Centerが実施した調査では、多く企業が、リーダーからの支持の獲得、リスクアセスメントプロセスの全面的な見直し、そして気候関連のリスクと機会が戦略にもたらす影響を把握するためのシナリオ分析の使用という、主に3つの領域で問題に直面していることが明らかになっています。

これらの領域は、言うまでもなくすべて重要ですが、最も重要なのは最高幹部からの支持の獲得でしょう。CDP社の調査で示されているように、多くの取締役会が環境の問題について議論していますが、「その考えを行動に移している取締役会はほとんどありません」。気候変動がコミュニティや企業に深刻な脅威をもたらす中、私たちはその議論の先に進んで行動を起こし、気候変動への対応が新たな経済成長の機会をもたらす可能性があることを認識しなければなりません。

そして投資家に対しては、ESGに対する取り組みの強化と投資収益率の向上の間に正の相関関係があることを主張し続ける必要があります。Calvert社、Morningstar社、Morgan Stanley社などの組織のデータに納得しておらず、そのような相関関係は存在しないと考えていたとしても、投資家は社会や環境の問題に注意を払っている企業に投資したいと思うはずです(企業がそうした対応によって投資収益率を低下させていない場合は、特にそのように思うはずです)。

 

ESG投資とIT部門がESGに注意を払うべき理由: リーダーのためのアドバイス

  • 投資家にとって、環境、社会、およびガバナンスの基準はさらに重要になりつつあります。
  • エネルギー使用量、労働慣行、製造プロセスが環境に与える影響、プライバシーとサイバーセキュリティなどの問題は、投資ポートフォリオ内のESGのリスクに目を向ける機関投資家が特に注視するポイントとなっています。 
  • IT部門は、ESGにおいてプラスの役割を果たし、これまで十分なサービスが提供されていなかった遠隔地域での情報、金融、または医療サービスへのアクセスを向上させることで社会に貢献できます。 
  • テクノロジーやイノベーションの賢明な利用が、最も大きな環境の問題を解決するうえでの重要なポイントになります。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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