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2019年4月16日

目的を果たしつつある電子医療記録

これまでの医療テクノロジーは常に記録の面でパフォーマンスが低く、患者は損な役割を担わされてきました。しかし、電子医療記録にオープン標準が適用されることにより、患者は自身のデータや治療を管理できるようになる可能性があります。

インターネットが登場した初期の段階から、技術者は電子医療記録(EHR)をやり取りするためのキラーアプリケーションが医療プロバイダー、保険会社、政府機関などの組織で使用されるようになるであろうと予測していました。それにもかかわらず、約30年が経過した今もなお、安全かつ外部に漏れることがない方法で医療情報を共有するというEHRの目的は、目指すところにかなり近づいてはいるものの、まだ果たされてはいません。EHRは、誰もが成果を向上させてコストを削減し、エクスペリエンスを高める医療システムからメリットを得ることができる価値あるビジョンであると一般に認識されていますが、実際のところ、私たちのほぼ全員が生まれてから死ぬまでの間に関わることになる、広く普及している医療のごく一部でしかありません。それではなぜ、長年にわたってこのように非常に価値が高いという認識が持たれてきたのでしょうか。

医療システムはこれまで、さまざまな理由から(請求の部分はそれほどではなかったものの)医療行為に関係する部分が本格的に電子化されることはありませんでした。こうしたシステムのコストは、補償されることがないプロバイダー自体がその大部分を負担しており、最近では、小規模な診療所が大規模な診療所に吸収されるという長期的な動向の中で、医療記録システムの統合が進んでいます。そしてシステムに新しい記録が入力されると、他のシステムや紙の古い記録は最終的に意味のないものになってしまいます。

普及に伴ってデファクトスタンダードの記録システムとなった、(病院向けのSAPなどの)クラウドベースの医療ソフトウェアシステムの増加は、多種多様な情報の削減という点でプラスの効果をもたらしてきました。ただし、医療記録との統合が進められず、相互運用性が確保されていないことが原因となり、患者が利用できる医療保険や国家的な医療プログラムの種類にかかわらず、医療関連のコストは増大しています。

ある程度時間はかかったものの、米国政府はCenter for Medicare and Medicaid Services (CMS)の形で医療記録システムの相互運用性を確保するためのオープン標準の開発と利用を義務付け始めました。こうした取り組みの中で生まれた規制は、2018年まで完全に軌道に乗ることはなかったため、まだ初期の段階ではありますが、CMSのアプローチは意欲的であり、少なくとも理論上は米国の医療システムの効率と透明性を向上させて利用者の満足度を高めるものになると思われます。

 

EHRの起源

1989年か1990年頃、私と上司は、そのときはまだ初期段階で一般的なユーザーには利用できなかった、医療プロバイダーがインターネットでやり取り可能な標準化されたEHRの可能性について何気なく話をしました。その当時、標準ベースのオープンネットワークはこの種のテクノロジーの開発に最適でした。

私は最初から、全血球計算(CBC)や検尿などの記録のための標準的なデータフォーマット、さらには多忙でコストのかかる臨床医に負担をかけることなくデータを分析できるソフトウェアが必要であると考えていました。そうしたフォーマットとソフトウェアがあれば、患者が知らない病院に運び込まれても、迅速かつ正確にその患者の医療記録を取得できる可能性があります。

「電子医療記録」などの用語は、多くの場合に同じテクノロジーに対して使用されていますが、私は、CMSがそう呼んでいることからEHRという用語を使用しています。そしてどのような市場要素があるかどうかにかかわらず、米国政府は競争上重要な役割を果たさなければなりません。

 

大手企業と標準

医療業界の複雑性、規制負荷、および規模の経済性は、大規模な施設やプロバイダーのネットワークに有利に働きます。EHRは、どの組織にも属さない医師が昔ながらのテレビ番組でしか見られないようになった原因である、一般的には規制や保険で義務付けられた多くの要因の1つでしかありませんが、結果として、大規模な施設では、小規模な施設より積極的にEHRの導入が進められてきました。

他の業界が完全にインターネット接続と各種の標準に移行する一方、医療業界は後れを取り、(米国の保険会社であるOscar社とは関係のない)カナダのOSCARをはじめとする、合理的なシステムを構築するための小規模かつ学術的な取り組みは行われてきましたが、インセンティブが一切なかったため、主要な企業や政府機関は最近まで強い関心を示してきませんでした。

遺伝子研究が活発に行われる中、急速なペースで飛躍的な進歩がもたらされており、それらすべてを把握するのは困難です。

私は長年このテーマに関心を持っており、病院や研究所に行って医師が入力する記録が表示された画面をのぞき見するたびに興味が湧いてきます。私は数年前、部分的にEHRのネットワークの効果を活かすために、あるネットワーク(私の場合は、自分が住む地域の中では大規模なAtlantic Health)のプロバイダーを利用することにしました。これらのプロバイダーは最近、Epic EHRシステムを導入するための長期プロジェクトを完了したため、どのプロバイダーも私に関するすべての記録を閲覧できるようになっています。さらに、私自身が記録の一部をオンラインで変更できるうえ、各プロバイダーは、私が(特にathenahealth社などの)別のEHRシステムから入手した記録にアクセスすることも可能です。他の大手企業としては、Cerner社、Meditech社、Allscripts社、CPSI社などが挙げられますが、他にも数多くの企業が存在します。

小規模な診療所を大規模なネットワークに統合してもEHRシステム間の不一致がすぐに解消されるわけではなく、Healthcare IT Newsで引用されている最近の調査結果によると、病院は平均で提携している診療所にある16のEHRベンダーの製品を使用しているうえ、そのかなりの数が合併買収によって生まれたものとなっています。主要なプロバイダーはいずれも製品の数を減らそうとしていますが、場合によっては、腫瘍学や行動保健学といった一部の医療分野のための独自のEHRシステムを含む特殊な製品があるため、その数を減らすのが他よりも困難です。

 

標準的な方法

私が約30年前に思い描いていたように、システム間でデータをやり取りするための標準のようなものがあればいいと思いませんか。そのような標準があると、複数のシステムを接続し、標準をサポートする他のプロバイダーと記録をやり取りするのと同じように、それらのシステム間で記録を移動することが可能になります。それでもやはり、多くの理由から製品の統合は必要ですが、標準があれば製品とプロバイダーをスムーズに連携させることができます。

これこそがHIMSS18で発表された新しいMyHealthEDataイニシアチブの基本的なビジョンです。MyHealthEDataについては、患者が自らの医療データを管理し、その使用方法を決定できるようにするということが公にされている主な理論的解釈となっており、これには、CMSや退役軍人省を含む、保健福祉省(HHS)の多くの政府機関が関与しています。

これらの責任は通常、関連する法律と規制によって国家医療情報技術調整官に割り当てられます。現在医学博士のDon Rucker氏が務めるこの役職は、2009年アメリカ復興・再投資法(Stimulus Act)の一部として2009年に設けられ、CMSによる製品の標準化と認定、およびHHSにおけるその他の活動を支えるための取り組みが長年にわたって進められてきました。

2014年と2015年には、認定に関する主要なイニシアチブが発表され、現在では医療製品を標準に準拠させるための認定サービスの業界が存在します。そしてCMSは、メディケアの支払い調整(おそらくは引き下げ)を受けたり、メディケイドのインセンティブの支払いを受けられなかったりすることがないよう、プロバイダーに認定製品を使用することを求めています。

国家医療情報技術調整室(ONC)は、この領域のソリューションとともに、EHRに固有のソリューションだけでなく、行動保健、長期ケア、急性期後ケアといった、あらゆる医療IT製品を広く認定しています。認定を取得した医療IT製品の一覧については、ONCの公式サイトであるHealthIT.gov (英語)をご覧ください。

認定の最新バージョン(エディション)は2015ですが、ここにはそれ以前のエディションの認定を取得した製品も多く記載されています。ただし、2018年8月に発表された新たなルールでは、プロバイダーは2019年の時点で2015エディションの認定を取得したテクノロジーを使用していなければなりません。

またこのルールは、価格の透明性を確保する義務など、医療ITと支払いに関するその他多くの側面もカバーしています。これについては、連邦官報のこのエピソードの41155ページにある「Requirements for Hospitals to Make Public List of Standard Charges」に目を通してください(簡略版:  2019年1月1日発効。CMSは、「インターネットを介してマシンが読み取れる形式で最新の標準料金の一覧を公開し、少なくとも1年に1回、または必要に応じてより頻繁にその情報を更新する」よう病院に求めています。記録や診断結果にアクセスできるソフトウェアを組み合わせた、最善の治療を探し求めることが可能なシステムを想像してみてください。そのようなシステムは理にかなっていますが、今のところはまだSFのようなものでしかありません)。

 

APIと相互運用性

MyHealthEDataの起源は、その一部分で「医療情報技術を相互運用可能なものとみなすには、そうした技術によって、医療情報を求める人物が特別な努力を払うことなく適用される州法、または連邦法で使用が許可されている電子的にアクセス可能なすべての医療情報を入手、やり取り、使用できるようにしなればならない」と述べられている、21st Century Cures Act (2016年)第3001 – 3010A項にあります。

この法律は、標準団体と連携してオープンな公開標準を作るようHHSに指示するものであり、こうした標準では、APIがベースとなります。APIの正確な性質はまだ確定しておらず、CMSがSOAPではなくREST、またはJSONではなくXMLの使用を義務付けるようなことはないと思われますが、最終的に定められるルールにより、技術的に優れている主体が権限を持つ記録にアクセスするようになる可能性があります。そのアーキテクチャーについては、Rucker氏の4月のブログでもう少し詳しく述べられています。

ONCとHHSは、今後数年間で以下を行う予定です。

  • 臨床データにアクセスしやすくするためのAPIに関連するルールの作成に携わる。
  • 「異なる医療情報ネットワーク間でのデータの共有を進めるためにTrusted Exchange Framework and Common Agreementを進化させる」。解決しなければならない、多くが医療プライバシー法に固有の重要なセキュリティの問題があるのは明らかです。
  • CMSと連携し、臨床医の管理と報告の負担を軽減するための戦略を策定する(担当の医師と率直に話すと、その医師はおそらく、患者ではなくコンピューターに膨大な時間を費やさなければならないことについて不満を口にするでしょう)。

相互運用性に関する新しいルールは、まだどの認定テストプログラムにも盛り込まれていませんが、CMSは2019年の新しいルールでプロバイダーに相互運用可能なテクノロジーの使用を「奨励」すると断言しています。膨大な情報が記載された連邦官報の641ページにある(約70万文字の)実際のルール(CMS-1694-F)により、意図した方法での標準の利用と相互運用性の確保が進むかどうかを述べるには、時期尚早かもしれません。

また、21st Century Cures Actでは、患者のデータを持つ主体が積極的に「情報の遮断」に関わってはならない(第3010A(d)項)という点が強調されていますが、この規則には、システム間のデータのアクセス性を向上させるという明確な目的があります。

 

相互運用性の現状

最近のONCの別のブログで述べられているように、病院のレベルでの相互運用性は大幅に向上しており、大部分の病院では、「患者の治療に関する記録の概要」を外部とやり取りすることが可能です。このような成果の多くは、医療ソフトウェアを作成するにあたって大手企業を利用しやすくなったことから得られるようになったわけですが、厳しい規制は通常、大手企業に有利に働きます。またこうしたケースでは、患者や他の主体にもメリットがもたらされます。

ただしこのようなメリットは、MyHealthEDataの目標であるオープン標準や差別のないアクセスに関するルールの潜在能力の比ではなく、物事が計画通りに進めば、30年前に見えていた可能性が実現するでしょう。とはいえ、それはまだSFのように聞こえるかもしれません。

 

電子医療記録: リーダーのためのアドバイス

  • 2018年に政府が課した義務により、米国ではオープン標準の導入が大きく進みました。
  • ONCは標準を認定しています。
  • 新しい標準はAPIベースになる予定ですが、まだそのような流れは起きていません。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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