ブロックチェーンによるビジネス
ビットコインは新たな通貨として意図されましたが、最終的には、商取引自体を変革することになりました。
ブロックチェーンテクノロジーを暗号通貨の観点で考えるのは容易です。それは、ブロックチェーンが、ビットコインとともに天才的なひらめきで発明されたことによります。暗号通貨はブロックチェーンなしでは存在できませんが、その逆は成立します。ブロックチェーンにより、金銭、不動産、美術品、株式、飛行機のチケット、医療記録まで、価値あるものなら何でも追跡できます。そのことによって、ありとあらゆるものが変わります。
ブロックチェーンは、匿名化された電子トランザクションのデータベースであり、台帳と同じですが、アクセスは開放されています。各トランザクションにはタイムスタンプが付けられ、共有データベースに記録されます。各レコードはチェックされた後に一連のデータブロックに追加され、各ユーザーのトランザクション履歴は誰でも見ることが可能です。
ブロックチェーンをトランザクション台帳と見なし、通貨を単なる商品として見なせば、ほぼすべてのビジネスにブロックチェーンテクノロジーを適用できる可能性が明らかになってきています。
トランザクションの管理
Zorkmid (ZM) という商品があるとしましょう。たとえば、私があなたに5つのZMを販売したい場合、あなたも私もZMのブロックチェーン上に匿名のIDが必要になります。ブロックチェーンは私たちのトランザクションを登録し、他の誰もがそれを見ることができるようにします。重要なことは、ブロックチェーンにより、トランザクションがチェックされ、私が同じZMを2回販売していないことを保証することです。これは、同じドル紙幣を2回使ったり、同じ土地を2回売ることができないのと同じです。いったんあなたにZMを渡したら、私はそれをベビーシッターに渡すことはできません。
ブロックチェーンの台帳は、多くの異なるコンピューターに複製されます。それらの更新に要する通信と計算のコストを理解するには、特に電子通貨ではそれらが大量に必要になるであろうことを考えれば、それほど多くの想像力を必要としません。
たとえば、ビットコインのブロックチェーンのサイズは140 GBを超えており、絶えず更新する必要がある約5,000台のノードが常時オンラインになっています。ビットコインのような暗号通貨では、チェーンを承認する処理は、ビットコインで対価が支払われる「マイナー」によって実行されます。トランザクションが少ない他のブロックチェーンでは、マイナーへの支払いに加え、台帳を維持・配布するため、中央機関が一般に「トークン」と呼ばれるトランザクション手数料を課すことがあります。
信頼せよ、されど検証せよ
ブロックチェーンを使用して、不動産から美術品、株式からコンテンツまで、あらゆるトランザクションについて信頼のチェーンを確立することができます。透明性を必要とするあらゆる市場では、ブロックチェーンを使用することで恩恵を受けられる可能性があります。ビットコインは、はるかに興味深いものへのテストケースとなりつつあります。
「私には、ビットコインは、いわば実現可能性の実験だったように思えます。」と、ニューヨークの法律事務所Pryor Cashmanのフィンテックグループの共同責任者であるBert Fry氏は述べ、そして続けます。
「そもそも、分散ネットワーク上のすべてのノードの合意に基づく、権威ある台帳を作成できるのか。ビットコインが私たちに示した答えはイエスです」
1つの飛躍的な進歩は、ブロックチェーンに基づいた「スマートコントラクト」、すなわちプログラマブルなお金という考え方です。誕生して2年になるデジタル通貨のイーサリアムはスマートコントラクトをサポートしています。これは、物理的な品物が配送された、株式が一定の価格に達した、時刻が12時になったなど、特定の条件が満たされたときにだけお金を振り替えます。ブロックチェーンによるそれらの契約は、興味深い応用をもたらします。
ウクライナの不動産市場を例にとってみましょう。不動産価格と外国投資を刺激するため、ウクライナ政府は不動産のブロックチェーンベースのデータベースを構築しています。それにより、不動産は、イーサリアムのブロックチェーンを通じて売買できるようになります。Propyという米国の企業がデジタル権利登録機関としての役割を果たし、買い手、売り手、公証人、財産登録機関の間を仲介します。すべての当事者が合意し、お金、つまりイーサリアムかビットコインが振り込まれると、電子権利証書が買い手に送られます。
美術品の販売も同様に行うことができますが、基となる美術品そのものを鑑定するという問題が増えます。Fry氏は言います。
「一般に人々が美術品が本物であることを示す方法は、歴代の所有者を明らかにすることです。管理履歴を開示できれば、その美術品に対して十分安心することが可能となります。本当にゴーギャンやピカソなどが制作したものなのです。これらの記録を追跡するさまざまな画廊があります。美術品の取引が完了する前に、本当にその美術品が本物であることを確かめるため、事前調査を行うことを専門とする権原会社のような画廊があります。」
Fry氏は、多くの美術品は決して展示されず、倉庫の棚の箱に収められているだけだと指摘し、「奇妙なことに、美術品は証券取引のように見える」と言います。「莫大な数の美術品がジュネーブの倉庫に収められており、人々はその美術品を実際に見ることなく譲渡します。倉庫の列と高さで識別されたロットが私の所有物です。私はその美術品を展示することに興味を持つかもしれないし、そうでないかもしれません。私が美術館に美術品を貸し出したいと思ったら、彼らはそれを取りに行くでしょう、譲渡したいと思ったら、譲渡するまでその場所から移動されることは決してないでしょう。」
一意性の保証
サンフランシスコの新興企業であるChronicled社は、美術品に永続的なIDタグを付与する実験を行いました。ブロックチェーンを使用して保証された美術品を売買できるよう、タグの番号と美術品に関する情報がブロックチェーンに登録されています。
ブロックチェーンにプログラムのロジックやコンテンツを含めることができるようになると、あらゆる種類のことが可能になります。ウォルマートは、中国において、その世界的な食料サプライチェーンの一部を追跡するため、ブロックチェーンの利用実験を行っています。マニア向けの出版社であるTENは、コンテンツをブロックチェーンに置き、読者や広告主がそれに対する支払いを行ったとき、読者に対してブロックが解除されるという仕組みについて議論してきました。ブロックチェーンは、いつコンテンツが購入されたかを正確に広告主に伝えることができるため、広告主はこのアイデアを気に入っています。
しかし、クレジットカード会社はブロックチェーンを危惧しているとFry氏は言います。「VisaやMasterCardのビジネスは、即座にトランザクションを行うことを可能にしましたが、ブロックチェーンはそれに完全に匹敵し、各トランザクションを完全に調整し、所持していないお金を使うことができない安全な仕組みを構築できるということに人々は気づくでしょう。」と同氏の見解を述べています。そのような規模とスピードを備えたブロックチェーンを維持するためのコストは必要になりますが、既存のクレジットカード決済機関が要するコストの2〜3%以下で済む可能性が十分にあります。
特定の条件下でのみ開始されるトランザクションは、証券取引によく似ているように思われ、金融テクノロジーコミュニティは、それらの意味合いを熟考していると、Fry氏は言います。「規制当局は、ブロックチェーンによって有価証券の取引やそれらの取引の記録が容易になりうるというアイデアに大きな関心を払っています。私は取引所によって運営されているブロックチェーンは、使用権を売買する他のインフラストラクチャと同じようなインフラになるだろうと思います」と追加しています。
それどころか、ブロックチェーンがすべてのトランザクションを透過的に追跡するというアイデアは、より整然とした市場を作り出すと、Fry氏は言います。
「パブリックブロックチェーンを設置することが考えられます。これは、規制当局が介入可能なブロックチェーンであり、そこでトランザクションが行われます。ここでは必要な統計分析を何でも行うことができます。そこで行われる証券取引も見ることができるため、証券売買について、その関連者に尋ねることが可能です。取引は匿名化されていますが、SEC (証券取引委員化) のように、取引を実施した人を知ることができます。アカウントに一致する人に質問したり、情報を取得することができます。」と同氏は追加しています。
ナスダックはすでに民間企業の株式市場を運営するためにブロックチェーンを使用しており、技術先進国であるエストニアにあるタリン証券取引所で、議決権の代理投票 (電子株主投票) を行うためのシステムをテストしていると伝えられています。
「ビットコインは高度に匿名化されているため、規制当局にとってはビットコインは好ましいものではないとの見解が当初にはあったと思います。」とFry氏は続けます。「実際、FBIなどの当局が見つけたものは、まったく異なります。現在私たちが運用しているモデルでは、規制当局は市場でのトランザクションが報告されてから、処置を判断する必要があります。ここで、トランザクション自体が報告書になり、規制当局がトランザクションにただちに関与でき、トランザクションに関するデータを収集する事務作業がほとんどないモデルになれば、さまざまなことが可能になると、規制当局の人々は興味をかなり示しています。」とその先の見解にも触れています。
ブロックチェーンが発明されたとき、それは特定の電子通貨であるビットコインを支えることを意図していました。しかし、価値交換のアイデアは暗号通貨よりもはるかに深遠であり、ブロックチェーンでの商取引はすぐに一般的にはならないかもしれませんが、世界は確かにその方向に向かっているようです。
Fry氏は言います。「ブロックチェーンが現在向かっている方向に引き続き進む場合に起きると思われることの1つは、ブロックチェーンについての話はおそらく二度としないだろうということです。これは、インターネットを動かすために使われているサーバーの一群に関して今では詳細な話をしないのと同じです。そのサーバー群はほとんど私たちには見えません。私たちは単にインターネットを使うだけです。何かを入力し、Googleから回答を得ることについて話します。それを支える大規模なプロセスがありますが、それについては気にしません。単に使うだけです。」
ブロックチェーン:リーダーとしての知恵
- ブロックチェーンは、もはや通貨に関するものではありません。それは価値に関するものです。
- 契約の保証はブロックチェーンの次のステップになります。
- ブロックチェーンは、金融界の仕組みを崩壊させるでしょう。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

Dan Rosenbaum
独立した寄稿ライター: 5件の記事を執筆
Dan Rosenbaum氏はCenter Ring Mediaの社長兼編集長であり、Wearable Tech InsiderとHealth Tech Insiderのサイトを公開しています。30年以上にわたる技術ジャーナリストであり、NetGuide、PC Sources、Mobile Office、Internet Shopperなどの編集者を務めてきました。
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