2022年3月25日
過剰なデジタルツールの問題とは
テクノロジーサービスの利用が急拡大すると、業務に支障が出ることもあります。これに対処する方法をご紹介します。
2年ほど前、提案書自動作成プラットフォームを提供する Better Proposals社のAdam Hempenstall氏は、あることに気が付きました。社内にデジタルマーケティングツールがあふれかえっていたのです。同氏のチームでは、固有のタスクに特化したさまざまなアプリケーションを多数導入していました。
同氏はこう振り返ります。「私たちはまさに、その時点で入手可能なあらゆるマーケティングツールを購入している段階にあり、それらを使用して、トラフィック分析、コンバージョン向上、ヒートマップの追跡、訪問者セッションの記録、サイトを離れる訪問者へのポップアップ表示、ソーシャルプルーフの通知などを行いました」。
ツール自体はそれぞれが便利に思われました。しかし、非常に多くのツールが混在するうえ、使用されるデータ量が膨大な中でそれらを効率よく使用することは困難でした。Hempenstall氏は、綿密に検討されたマーケティングアプローチに従ってツールを選定し利用できるマーケティングリーダーを雇用することにしました。
同氏はこう話します。「控えめなほど効果があると言いますが、本当にそのとおりでした。大きな成長が見られたのです。しかるべき使い方を誰も知らないツールや、解釈の方法が誰にもわからないデータに投資せずに、適切なリーダーシップに頼ったことが功を奏しました」。
急増する技術ツール
Hempenstall氏が経験したような状況が最近よく見られるようになりました。デジタルツールは過去数年間で急増しており、特に、この分野が成長していることと、コロナ禍でのリモートワークへの移行によってそうしたツールの導入が加速されたことが増加の理由に挙げられます。多くのツールを利用したことで、ビジネス推進、従業員の生産性向上、オペレーションの合理化が可能になりました。しかし、従業員が使用するツールの数がある限界に達すると、業務の効率化にプラスではなくマイナスの影響が及ぶようになります。
つまり、過剰なデジタルツールは、生産性の向上どころか低下につながります。人事ソフトウェアを提供するPersonio社が人事部門の2,500人の意思決定者と従業員を対象に実施した調査によると、その37%が過剰なデジタルツールを管理するのは困難と感じ、36%が全ツールの管理は業務を妨げると考えています。また、500~2,000人のユーザーがいる平均的な企業で800以上のクラウドベースアプリケーションが使用されていますが、それも不思議ではありません。
ツールの急増は、従業員にこうしたワークフローへの懸念をもたらすだけではありません。それ以外にも管理上の問題を引き起こし、組織全体のビジネスプロセスの効率化と費用対効果向上を妨げる可能性があります。
「テクノロジー組織のリーダーとして、私たちは、より俊敏で技術的なアプローチを取り入れ、その時点で入手可能な最良の選択肢を使って、目の前の問題を解決してきました」。パフォーマンスマーケティング会社、Tinuitiでエンジニアリングディレクターを務めるJudah McAuley氏はそのように語ります。「しかし、それは、無秩序な状態を招きます。そうした状態を抑制する戦略的なアプローチがなければ、ツールはユーザーのもとを離れていきます」。
過剰なデジタルツールが招く問題
ツールがユーザーのもとを離れたときのことを想像してみましょう。技術ツールを管理できなくなると、さまざまな問題が発生します。特に顕著なものについて説明します。
1. 混乱
必要なツールを自分で購入できるようになった従業員は、自立した責任ある仕事を行えるようになります。しかし、これによって混乱が生じる可能性があります。無秩序になることさえあります。
承認のオーバーヘッドを削減すると、同じ機能のアプリケーションが存在したり、ソフトウェアライセンスが重複したり、確認なしの支出が発生したりする可能性や、不要になったツールを個別かつ一元的に追跡する手段がなくなる可能性が高くなります。
「高い実績を上げる組織では、自主性が求められます」。McAuley氏はそう指摘します。「しかし、自主性があっても方向性がなければ、グループ間で目標が食い違います。現場に意思決定を任せると同時に、同じ方向を向いて意思決定できる構造を維持するのは簡単ではありません」。
2. コスト
特にSaaSツールなど、多くのデジタルツールはそれ自体に多額の費用がかかるわけではないため、購入の決断に時間をかけずに入手できます。しかし総支出を誰も追跡していなければ、そうした少額が積み重なり、知らず知らずのうちに膨大な浪費を招く可能性があります。
「監査を行ったところ、使っていないJiraプラグインに数千ドルを費やしていたことがわかりました」。McAuley氏はそう振り返ります。
この数千ドルは、ビジネスのほかの目的に利用できたかもしれません。あるいは、さまざまな機能を1つの金額で統合できる価値あるソフトウェアに転用できた可能性もあります。デジタルツールの費用に適切な額はありません。しかし、適切な方法を取れば、投資に合った見返りを得られます。
3. セキュリティ
デジタルツールが急増すると、セキュリティにも大きな懸念が生じます。すべての新しいアプリケーションにアクセス権限や監視が必要になるからです。この場合、すべてのツールを一元管理できなければ、さまざまな脆弱性が生まれる可能性があります。
さらに、多くのSaaSでは、ライセンスが1つのメールアドレスまたはユーザーアカウントに紐付いています。そのため、ライセンスを購入した従業員が退職した場合、ベンダーに所有権を譲渡してもらわないとそのツールを使用できなくなります。そうした譲渡が常に可能とも限りません。
もうひとつの問題点は、私物デバイスの業務利用 (BYOD) ポリシーの導入が一般的になったことです。こうした状況では、ライセンス管理と監視の一元化が容易ではありません。従業員のデバイスのセキュリティをどうしても管理できなくなり、デジタルツールが急増するにつれ脆弱性が高まる可能性があります。
デジタルツールを常にチェックするためのヒント
どうすれば、デジタルツールによる生産性の最大化という罠に陥っているかどうかを判断できるでしょうか。それを防ぎ、そうなったときに修正するにはどうすればよいのでしょう。ここでは、拡大し続けるデジタルエコシステムを常に管理するためのヒントをいくつか紹介します。
1. 監査
最初に実施すべきステップはIT監査です。これにより、既存のツール、それらの費用、利用方法、適用されているポリシー、ほかのツールとの関連性、企業目標との関連性などを包括的に把握できます。
「定期的に監査を行い、現在使用しているツール、その費用、全ツールのコンプライアンス要件への準拠状況を十分に把握する必要があります」。顧客コミュニケーションツールを手がけるEnchant社の共同創設者でCEOのVinay Sahni氏はそうアドバイスします。「請求書を見て、なぜかいまだに支出しているツールがあるとわかったら、一歩下がって社内監査を実施し、全体像を十分に把握しなければなりません」。
2. 統合
技術ツールが過剰に存在するときの課題の1つは、非常に多くのベンダー、ポリシー、料金、ライセンス、契約などを日常的に管理する必要があることです。監査後に、重複している機能、結合可能な調整済みの機能、削減できる無関係な機能が明確になったら、何よりもまず、そうしたツールを少数のアプリケーションに集約してください。
特定のツールが企業のニーズを満たさなくなったら、それ1つの機能のために代わりのツールを見つけるのではなく、その機能を別のツールと結合できるチャンスです。そうすることで、管理の合理化と、セキュリティリスクの削減という利点も享受できます。
「私なら可能な限り、請求書をまとまって受け取れるようにベンダーの数を削減します」。Sahni氏はそう語ります。「そうすれば、コストを管理すると同時に、コンプライアンス上のリスク要因を制限できます」。
3. 管理
デジタルツール管理の改善で最も重要なのは間違いなく「管理」そのものです。多くの場合、デジタルツールは十分すぎる数に増加します。それらを専任で監視して、通信や重複に目を光らせる従業員や部署が存在しないからです。
あるケースでは、導入済みツールへの認識が欠け、十分なトレーニングを提供できないことで、従業員がそうしたツールの利用を怠って、重複した機能を持つアプリケーションを採用したり、社内ですでに利用されているアプリケーションのライセンスを新規購入したりしています。
技術ツールの利用を合理化するには、まず従業員を教育して、手元にあるツールを理解してもらいます。これにより、ツールが利用されないまま放置されることだけなく、組織の収益拡大や発展を妨げることも防ぐようにします。
リーダーのためのアドバイス
- デジタルツールの急増は、混乱、コスト管理能力の低下、セキュリティリスクの拡大につながります。
- デジタルツールを監査、統合、管理することで、それらを最大限に活用できます。
- デジタルツールを管理するには、従業員の自主性育成と、管理の一元化を両立する必要があります。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Katherine Gustafson
フリーランスライター、3件の記事
Katherine Gustafsonは、フルタイムのフリーランスライターであり、フィンテック、ヘルスケアIT、B2B SaaSのテクノロジーディスラプターといった、使命を重んじる変革者に、専門的なコンテンツを提供しています。また、KPMG、TD Bank、Workday、Avalara、Adobeなどの企業向けに、会計、マネジメント、イノベーションなどのビジネストピックに関する執筆も行っています。サスティナブルフードのイノベーションに関する著書があり、QuickBooks Resource Center、Business Insider、Forbesなどのさまざまなサイトや出版物にも寄稿しています。
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