2020年6月5日

映画製作のイノベーションを加速させるDisney社のStudioLAB

映画製作ビジネスでは、最先端のテクノロジーが重要な役割を果たしています。その詳細について、StudioLABのテクノロジーイノベーション調査担当マネージャーに話を伺いました。

The Walt Disney Studiosは、1世紀近くの長きにわたってエンターテインメントの世界に最先端のテクノロジーを取り入れてきたことで高い評価を受けています。

1928年に世界に先駆けて音声とアニメーションを完全に同期したミッキーマウスのアニメーションである「蒸気船ウィリー」、グラフィックと音が素晴らしい1940年の「ファンタジア」、そしてPixar Animation StudiosとLucasfilmによるCG映像に至るまで、このエンターテインメント業界の巨人は次世代のテクノロジーを活用して人々の記憶に残る物語を生み出し、絶えず映画の歴史を塗り替えてきました。

The Walt Disney Studios StudioLABは、エグゼクティブ、技術者、および映画製作者が仮想現実、人工知能、複合現実、ドローンなどの数多くの新しいテクノロジーの情報を共有したり、そうしたテクノロジーを試したりできる場所です。

StudioLABは、イノベーションを加速させるべくAccenture Interactive、Cisco、Verizon、Microsoft、およびHewlett Packard Enterpriseと提携しており、たとえばHPEは、より没入型のエクスペリエンスを実現するために、AI、ディープラーニング、ハイパフォーマンスコンピューティングを活用して映画製作のプロセスを進化させています。

StudioLABの最初の成功事例の1つとしては、2018年のエミー賞でOutstanding Original Interactive Program部門にノミネートされた、Pixarが開発したソーシャルVRエクスペリエンスである「Coco VR」への貢献が挙げられます。またその後の功績として、Marvel Studiosの「キャプテン・マーベル」をはじめとするメジャー映画への新しい技術要素の提供などがあります。

私たちは最近、StudioLABの方向性とともに映画業界のイノベーションを維持するうえでこの新しい創造的な空間がどのような役割を果たしているのかを詳しく知るために、StudioLABのテクノロジーイノベーション調査担当マネージャーであるEvan Goldberg氏に話を伺いました。

 

Disneyでの役割について少しお話しいただけますか。

私はThe Walt Disney Studiosで14年間働いていますが、コンピューターグラフィックスが専門ですので、技術者でもありアーティストでもあります。

私の任務は、StudioLABでもそうですが、常に映画の独創的なニーズ、映画製作者の創造的なビジョン、そしてアーティストのインスピレーションから生まれた要望の把握に努め、現在のテクノロジーではビジョンを実現できない部分を特定することにあります。また同様に、大画面でより質の高い卓越した映像を実現できるよう、革新的なテクノロジーを導入したり、新しいソフトウェアを開発したり、製作プロセスを改善したりする役割も担っています。

 

StudioLABのミッションについて教えていただけますか。

StudioLABは、Disney Studiosの傘下にあるDisney Live Action、Walt Disney Animation Studios、Pixar Animation Studios、Marvel Studios、Lucasfilm、20th Century Foxのすべてのエンターテインメントビジネスを革新的な方法で促進する役割を果たすことをミッションに掲げています。これらのビジネスに携わるスタッフは全員が映画製作で忙しく、それぞれの専門分野に固有の課題の解決に取り組んでいるためです。StudioLABは、最新のテクノロジーの動向やツールを把握し、その情報を映画の製作とマーケティングの両方で活用できるようスタジオ全体に発信する役割を果たしています。そして私たちは、映画製作者が今すぐ活用できる新しいテクノロジーだけでなく、将来の映画製作に役立つ新しいプラットフォームも探し求めています。

 

StudioLABの環境はかなりユニークなようですね。

そうですね。スタジオの撮影所の中心に位置するこの象徴的なアニメーションビルの中には、先進的かつインタラクティブなハブがあります。

ここに入ってくると壁に映し出されたデジタル映像が目に入ってきますが、そのいくつかは近くを通るとインタラクティブに反応します。そしてさらに奥に進むと、さまざまなテクノロジーをご覧いただけます。ここには私たちがTools and Techと呼んでいる部屋があり、クリエーターはさまざまな種類のカメラスタビライザーを試したり、写真測量やドローンテクノロジーを製作プロジェクトに役立てるさまざまな方法を見出したりできます。またここでは、没入型のコンテンツを実際に試してみたい人向けに、そうしたテクノロジーのデモンストレーションも行っています。

私たちはまた、コンセプトを考えたりミーティングを行ったりするのに最適なスペースも用意しており、テレプレゼンス会議システムとデジタルホワイトボードを備えた会議室、ARアプリケーションのデモを見たり、テクノロジー中心のコンシューマー製品を試したり、大画面のTVで最新のトレーラーのすべてを再生したりできるリビングルーム、電話を受けたり静かに会話したりするのに最適な禅と自然を取り入れたような部屋などがあります。

 

これまでにチームのメンバーが最も興奮したStudioLABのテクノロジーについて教えていただけますか。

たとえば私たちは、ロケーションベースの仮想現実を提供するエンターテインメント企業であり、最近「Avengers: Damage Control」と呼ばれる他にはないエクスペリエンスを公開した、The Void社と提携しています。また同様に、「Coco VR」などの独自のVRエクスペリエンスを開発するために、StudioLABを通じて他のVR企業とも提携してきました。

こうした取り組みの場合、美しく描かれた映画を90分間観た人は、引き続きそのような架空の世界を探索したいと考えるため、基本的には調査を行って「架空のキャラクターから別のエクスペリエンスを生み出す方法」を検討しています。映画を観た人は引き続きそのキャラクターと触れ合いたいと考えるため、私たちは常に映画の中の世界を映画館以外にも広げる方法を模索しています。

 

ドローンも試されているということを聞いて驚いたのですが、それについて教えていただけますか。

ドローンは有益な成果をもたらすことがはっきりとわかりました。私たちのチームの1つは、ドローンでロケ地の写真を撮ってアクションを演出する場所についての情報を提供するScout in a Boxと呼ばれるプロジェクトを成功させたのですが、それは現在、写真測量サービスのようなものとして活用されています。

私たちは、ロケ地をスキャンして写真を撮り、プログラムによってそれらの写真をポイントクラウドと呼ばれる、再構築することでロケ地全体のビューを作成できる、小さいドットの3D情報に変換するためにドローンを飛ばしています。私たちはこの手法を「キャプテン・マーベル」で使用したのですが、そのときは (カリフォルニア州) ヴァンナイズのモールでドローンを飛ばして空からロケ地を探し、そこで得られたポイントクラウドを映画で使用するデジタル資産の作成に役立てました。

 

では、どこかに映画のセットを作るのではなく持って来たのですね。

そのとおりです。そして本当に素晴らしいのは、映画製作者とロケ地探しのためのツールとして活用され始めたものが、今では会社の別の部分に影響を与えているという点です。たとえばDisneyには、これまでの映画やセットの小道具、模型、記念品などのすべてを管理するアーカイブグループがあるのですが、そのグループでは現在、写真測量に関する豊富な知識とドローンをはじめとするツールを活用して、以前なら倉庫で眠っていたであろう、人が施設の中に入ってかなりの時間探し回らなければ見つけることが難しいとわかっている資産をスキャンしてデジタル化しています。

 

デジタルイノベーションはこの10年で大きく進歩しましたが、アニメーションにどのような変化をもたらしていますか。

現在の画面のピクセルは品質と精細度がかなり高くなっており、あまり技術的なことは説明しませんが、一例として (2013年の)「アナと雪の女王」と (2019年11月22日に公開された)「アナと雪の女王2」の間でのレンダリングテクノロジーの変化が挙げられます。従来のレンダリングの手法はレイトレーシングとパストレーシングへと進化しましたが、これはおおむね、光と物質の大まかな感じを捉える手法から、光線と光子をそっくりそのままデジタルで撮影し、それらをシーンの中でトラッキングしてよりリアルな物理的にもっともらしく見える映像を作り出す手法に変わったと言えます。これらの映像を並べて見てみるとキャラクターの豊かさに顕著な違いがあり、アートディレクションは同じですが、一般的に言えば、テクスチャー、サービス、物質特性などがはるかに精巧になっています。

レイトレーシングとパストレーシングは長年使用されていますが、現在ではコンピューティング性能が大きく向上しており、問題が発生したときにパフォーマンスの高いハードウェアを投入してこれまでよりはるかに短時間で成果を得られるため、同じ作業時間で何倍もの処理が可能になります。そしてそれは、ストレージからデータのレイテンシ、CPUやGPUのスピードまで、コンピューティングのすべての領域に当てはまります。

このようなコンピューティング性能の向上により、私たちは迅速に能力を高められるようになりつつあるわけですが、別の映画とその続編の例を見てみると、「シュガー・ラッシュ」と「シュガー・ラッシュ:オンライン」のインターネットのシーンでは、その違いは歴然です。建物、群衆、ネット民の数を比較すると、第1作目にも確かに群衆は描かれていますが、その数は少なく、画面上の要素の数と全体的なピクセルの品質に差が見られます。このようなことから、コンピューティング性能がさまざまな芸術の分野でどれだけ業界を発展させてきたのかが実際にわかるのです。

 

Disney社のStudioLABと他のスタジオの同じような施設の差別化要因は何だと思われますか。

StudioLABには優秀な人材が集まっており、アーティスト、技術者、クリエイティブなスタッフがうまく連携しています。他のスタジオと異なるのは、全員がイノベーションを推進する目的でイノベーションを活用しているのではないという点です。私たちにとって重要なのは、作品の質を高めてそれを観る人の心を捉える卓越したエクスペリエンスを提供し続けられるよう、映画製作者をサポートするのに適したテクノロジーを見つけ出して活用することなのです。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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