2020年4月3日

リスクテイクの基盤となる適切なイノベーション体系

イノベーションとリスクテイクには、成果を得られる適切な体系が社内に必要です。リスクと報酬のバランスを図る選択肢について、専門家に話を伺いました。

イノベーションの活性化には、リスクを受け入れる文化が必要です。その文化は、経営陣主導で築く必要があり、その後、リスクを評価するためのツールを整えなければなりません。これらを達成できたら、次の課題は、イノベーションに乗り出したことで得られた、新しい製品、プロセス、アプローチのアイデアをどのように迅速に実現するかです。メンバー全員を呼んで「とにかくイノベーションだ!短期間で終わらせるように!」と指示すれば済む話ではありません。あなたの意志が革新的な成果につながるように、しかるべき体系を作る必要があります。

「社内の体系や社員、文化を大きく変えるには長い時間がかかり、大きな困難にも直面します」とJoel Peterson氏は述べています。同氏は、スタンフォード大学経営大学院のRobert L. Joss経営学非常勤教授と、フーヴァー研究所の監督員長を兼任しています。「迅速な方向転換を図る場合の最適な方法は、プロジェクトや期間の終わりまで有効な、指導者、スカンクワーク、独立したグループを設けることです」と同氏は続けます。

Wellspring社の調査『組織におけるイノベーションの進行状況 (Innovation's Evolving Organizational Footprint)』では、「ここ数年、企業のイノベーションプログラムの種類と数が顕著に増加しています。また、廃止されたり、目的が変更されたりなど、新しいイノベーションの数々が燃え尽きた割合も注目に値します」と指摘されています。

イノベーションを効果的に進めたいという思いが、こうしたイノベーションの急増につながっています。また、Peterson氏が示すように、可能なイノベーション体系に、多数の選択肢があることが燃え尽きの原因です。では、自社にとって適切な選択肢は、どのように判断すべきでしょうか。正しく選択できるかどうかが、成功と失敗の分かれ目です。

選択肢の一部を紹介します。

スカンクワーク: 野心に満ちた秘密の開発組織。会社に所属するものの独立している。

社内VC組織: 自社の運営を多様化させるために、外部のスタートアップに投資する部署。

アクセラレータ: 資金、時間、指導が限られる中で、交代で対応にあたるイノベーションチームを提供する専門組織。

スタートアップ: 親会社の制約の一部を受けない内部の会社。

研究開発ラボ: 研究に特化したグループ。少なくとも5年のサイクルで開発を手がける。

Center of Excellence: AIやエッジコンピューティングなど、特定分野の専門知識によって持ち会社全体に寄与する組織。

イノベーション委員会/サメの水槽: 公開された定期的な会議。従業員が新しい製品やサービスを売り込むことができる場であり、成功すれば、開発期間と予算に加え、社内の支持者を得られる。

 

適切な選択を行う

「私なら、最初にその目的を尋ねます」 とRobert Siegel氏は語ります。同氏は、スタンフォード大学経営大学院で経営学の講師を務めており、XSeed社のジェネラルパートナーでもあります。「目的が、イノベーションを推進する起業能力を見出すことであれば、イノベーションの筋力とも言える達成力向上の一環として、これらの選択肢に目を向けるべきです」。

どの選択肢をとるにしても、マラソンのような長期的な取り組みであるイノベーションに向けて、文化を良好に保つ必要があります。イノベーションとは、収益を目指し、ビジネスの主要なコースに沿って走る競争なのです。

「今日では、大部分の会社や、確立された組織は、イノベーションが、どの企業も取り組むべき継続中のプロセスであることを認識しています」とSiegel氏は述べています。現在のビジネスを運営しながら、新しいタイプのビジネスと新しい機会を探求しなければなりません。

Siegel氏は「成功への道筋も、失敗の原因も1つではない」とも述べています。

 

プレーする

イノベーション体系の選択肢のほとんどで、プランニング、リーダーの賛同、充分な予算が必要とされます。一方で、イノベーション会議は、ガレージからの起業を会社のイノベーションで行えるような場であり、参加のハードルが高くないため、特別な配慮が必要です。

「毎週金曜日の午後にイノベーション会議を開いている会社があります」とCraig Partridgeは語ります。Craigは、HPE Pointnextサービスで、アドバイザリとトランスフォーメーションプラクティスのワールドワイドシニアディレクターを務めています。「会議では、スタッフがアイデアを売り込むことができます。それが採択され、グループのコンセンサスが得られれば、実用最小限の製品 (MVP) として展開されるようになります。さらに、市場で好評を博したMVPは、翌年の戦略に組み込まれます」。

そうなると、イノベーション会議とは何やら騒がしく、一般にビジネスと結び付くような本質を備えていない場のように思えます。しかし、それは必ずしも悪いことではありません。エンジニアたちが、たとえば水飲み鳥のおもちゃの仕組みを仕事の合間に考えるのを見た人なら、誰もがそう断言できます。

「意外に思われるかもしれませんが、リスクを取る意志に影響を与える要因として「プレー」があります」とLanny Vincent氏は述べています。同氏はVincent and Associates社の社長と、サンタクララ大学の非常勤講師を務めています。「プレーすれば安心感を得られます。安心できればリスクを取る気になれます。プレーにもリスクはありますが、プレー中の失敗の影響は抑えることができますし、そうした影響は一時的なものです。プレーが奨励されれば、メンバーは弱気にならずに済むし、チームを信頼できるようになります」。

Tom Bradicich博士は、現在ヒューレット・パッカード エンタープライズで、バイスプレジデントとHPEフェローのほか、IoTとエッジのラボ、およびCenter of Excellenceの責任者を務めていますが、以前はIBM社の社員でした。IBM社には、イノベーションのプロセスがあり、その中で、投資の検討を行う会議が開かれていました。

「イノベーション会議の良し悪しは参加者で決まります」とBradicich博士は語ります。「そのため、参加者が才能豊かであることが非常に重要なのです。一般に、有能かどうかは、イノベーションを主導して、前例のないほどの成功を収めたかどうかで判断できます。イノベーションは孤独な事業になる可能性があります。その言葉が示すとおり、革新的なことを行うのですから」。イノベーション会議を設ける場合であれ、イノベーションの推進につながる体系を作る場合であれ、イノベーションに抵抗のないメンバーで構成する必要があります。

 

イルカの水槽

ヒューレット・パッカードラボの主席リサーチサイエンティスト、Harumi Kunoは、R&D自体が、イノベーションを支援し、リスクを軽減する体系を取っており、安全な環境での探求的かつ長期的な開発を可能にしていると述べています。しかし、ラボ固有の性質上、さまざまな人のあらゆる需要を満たせるわけではありません。そのため、2017年の初めに、Laurel Kriegerが、HPEのイノベーションを推進する新たなアプローチの研究を開始しました。Laurelは、戦略と運用のバイスプレジデント、およびHPEのCTOの下で働くスタッフの責任者を兼任しています。

ヒューレット・パッカードラボのチーフアーキテクト、Kirk Bresnikerは、前述した選択肢の評価プロセスを、次のような的を射た質問にまとめています。「変化をもたらすには、どのようにアイデアを実現すればよいですか?」。テクノロジーのみを重視しないのも1つの手です。

「全従業員が重要な役割を果たします。プロセスに関わる人、製品開発やサービス提供に関わる人など、全員の問題なのです」とKirkは指摘します。イノベーションへの資金提供の問題でもありません。資金以外にも成功と失敗を分ける要因が数多くあります。

「許可、管理、関係作りのほか、アドバイスや指導を考慮することなどが要因となる可能性があります」とKirkは述べています。「これらを行う場合、時間と関係作りの労力以外に費やすものはありません」

HPEでは、サメの水槽ではなく「イルカの水槽」と呼ばれるものが、新しいイノベーション体系として提案されています。競争がないというわけではありません。競争しつつも協力を得られる環境でイノベーションを現実化するのです。イノベーション会議のメンバーがすぐに資金を提供し、参加者の成果に期待するという場でもありません。こうしたメンバーは、参加者とともに取り組み、MVPの開発に何が最も必要なのかを見極めます。参加者にとっては大きな資金源になるかもしれません。しかし、ここでは、指導を得られるとともに、社内の支援者を獲得したり、機器などのさまざまなものを利用できたりする可能性もあります。

また、この会議が通常と異なる点は、参加者を引き付けるテーマや質問を公開することです。そのプロセスには、参加者向けの指導や、ビジネス開発の専門技術に関する助言も含まれています。イルカの水槽の考え方では、こうしたことが活動の大半を占めています。いちかばちかのアプローチを採るサメの水槽よりも、多くの人が参加しやすく、協力的であることが重視されるのです。もう1つ、HPEのイルカの水槽ならではの特長は、対象の期間が1か月や四半期ではなく、まる1年であることです。

HPEには、より多くの業務、時間、資金、専門性を必要とするプロジェクト開発を推進するために、アクセラレータプログラムを設ける計画もあります。

HPEでは、新しいアイデアを生むためのプラットフォームとして、Brightideaを利用しています。これによって、参加者は、課題の投稿、質問、テーマの提案を行い、広範囲なイノベーションに対する、会社と従業員の期待を高めています。また、賛同してくれる人やグループも特定できます。イルカの水槽は早ければ、2020年2月にHPEが社内で開く、技術に特化した年次カンファレンス、Tech Conで初公開される予定です。しかし、このプロセスは、一度きりのものではありません。Laurelによると、HPEは、イノベーションを毎年繰り返す計画です。言い換えれば、イノベーション体系の選択肢全体を中心に、イノベーションを進めたいのです。

 

リスクテイクを努力が報われるものに

こうしたイノベーションを展開するときに考慮すべきなのは、資金だけではありませんが、やはり資金は重要です。同じく重要なのは、遠ざかるイノベーターへの報酬です。こうした従業員をSiegel氏は「野生のカモ」と読んでいます。

「こうした野生のカモに配慮して、報酬体系と、創造的な組織構造を設けることに、多くの企業が頭を抱えています」と同氏は語ります。「ここでの課題は、報酬を得られる創造的な体系が明確にならなければ、有能な野生のカモが、会社を辞めて起業してしまうことです。彼らは、経済的にメリットのある環境に身を置くことができるのです」。

報酬は、金銭である必要はありません。少なくとも金銭のみである必要はありませんが、リスクを取ってもらう代わりに報酬を与える方法がなければ、イノベーションを完結できません。

「リスクが大きくなるほど、可能な報酬を増やす必要があります」とSiegel氏は述べています。「昇進、現金、肩書きなどでも構いません。報酬を大いに得られる可能性がなければ、リスクを取る人などいませんよね」。

リスクテイクの奨励: リーダーのためのアドバイス

  • 目標の理解
  • 適切な種類のリスクを取ることを奨励する体系の開発
  • リスクを取った後に会社を離れそうな人に報酬を与える
  • 金銭ではない報酬とリソースを活用する

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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