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2021年1月15日

Jerome Baudry博士に聞く: COVID-19研究、スーパーコンピューティング、ミニマリストアートの現在

スーパーコンピューターによって私たちの働き方は良い方向に変わりつつありますが、複雑な問題を解決するうえで重要なのは、データの裏側にいる人間たちです。Jerome Baudry博士が、COVID-19に関する自身の研究、その過程で得た教訓、休暇中に何をしているかを話します。
このQ&Aシリーズでは、キャリアにおいて素晴らしいことを成し遂げ、その分野の限界を押し広げた人にスポットライトを当てます。彼らのモチベーションとインスピレーションを垣間見てみましょう。

Jerome Baudry博士は、1月にはCOVID-19の存在に気づいていました。その時はまだ、博士が現在住んでいる米国には感染が広まっていませんでした。また、彼が育ったフランスでも広まっていませんでした。博士の妹が感染し、回復するのもまだ先のことでした。しかし最初の段階から、この病気によって大きな危機がもたらされることは、博士にとって明らかでした。

Baudry博士は、ハンツビルにあるアラバマ大学生物学部のPei-Ling Chan Chairを務めています。博士のチームが現在取り組んでいるミッションは、天然成分を使用して、COVID-19と戦うための薬や治療法を見つけることです。ワープスピード作戦で働く研究者たちを支援するのは、ヒューレット・パッカード エンタープライズのCrayスーパーコンピューターSentinelです。このコンピューターによって、彼らは1日に約120万回の計算を実行できます。知識が生まれる速度が非常に速いため、追いつくのは困難だと博士は言います。

「未来の科学者だけでなく、芸術家、ソーシャルワーカーなどのあらゆる人に向けてこう伝えることが重要です。スーパーコンピューターは働き方を良い方向に変えるものであって恐ろしいものではない。上手く活用し、素晴らしいことを成し遂げるための助けとするべきだ、と」

Baudry博士のグループは、コンピューターによる創薬の手法とプロトコルを開発し、実践するために結成されました。そのため、パンデミックを阻止するための取り組みに参加することは自然なことでした。

「植物や自然が人を死に至らしめる場合もあれば、救う場合もあるという人類古来の知識と、人類史上最高の科学的および技術的進歩を組み合わせることに貢献できて、非常に嬉しい気持ちです」とBaudry博士は言います。

Baudry博士が、COVID-19との戦いにおけるチームの進捗状況と、その過程で学んだ知識を紹介します。

「新しい問題の解決には、しばしば実践的で、風変わりで、経験を頼りにした、リスクを伴うアプローチが求められます」
アラバマ大学 (ハンツビル) 生物学部PEI-LING CHAN CHAIR、JEROME BAUDRY博士

 

COVID-19研究の状況はいかがですか?

研究は猛スピードで前に進んでいます。HPEとのコラボレーションによるコンピューティング作業によって、COVID-19に関する多くの興味深いことが分かりました。それらの発見によって、COVID-19に対抗できる可能性が最も高い天然成分に優先順位を付け、実験、検証することができます。

私たちは、メンフィスにあるテネシー大学ヘルスサイエンスセンターのBSL-3ラボラトリと協力して、COVID-19に対抗できることが期待できる天然成分に順位を付けています。まもなく、これらの天然成分がCOVID-19に対してどのように作用するかが明らかになり、私たちのコンピューティング作業を検証したり改善したりできるはずです。

 

COVID-19研究では、予測していなかったどのような課題に直面しましたか?

課題と機会は、同じコインの表と裏であることがほとんどです。COVID-19の場合、状況の緊急性は恩恵でもあり (後述)、呪縛でもありました。

すばやく多くの決断を下さなければなりませんでした。時には、そのための十分なデータを得られていなかったとしても、優れた注意深い決断をする義務があることには変わりがありませんでした。

専門知識と注意力を総動員する必要があります。集中力を高めて、リアルタイムで計算の結果を確認しなければならないのです。コンピューティング作業によって必要なデータが得られていないことが最初の結果で分かった場合、計算の途中で戦略を変えなければならないこともあります。その場合の課題は、コンピューティング作業に対して非常に積極的に介入するようにプロセスを変更することです。

私はかつて、軍隊と産業の分野でも科学的研究を行っていました。そこでも同じように時間が重要でした。しかし、生物科学においてそれは一般的ではありません。即座に行動を起こすよりも、長い時間をかけて考察するほうが適している場合がほとんどです。

 

これまでの研究とCOVID-19の研究にはどのような違いがありますか?

緊急の状況が恩恵になると言ったのはその点です。現在、コミュニティの全員が協力しあっています。こんなことは滅多にありません。グループは今でも「競争」していますが、お互いに対する競争ではありません。ウィルスに対する競争です。敵はいません。いるのは味方だけです。

専門性の異なる多くの科学者や医師たちが、前例のないやり方でお互いに話し合い、そしてお互いの話を聞きあっています。私たちが2、3か月でHPEと協力してこのスーパーコンピュータープロジェクトを立ち上げ、計算結果を出し、BSL-3ラボでテストできているという事実は、かつて聞いたこともないようなことです。

COVID-19の危機は大きな脅威であり、起こらなければどれだけ良かっただろうと思います。しかし、それによって私たちは、幅広く奥深い目標を中心に結束しました。従来の創薬プロジェクトでは、この段階に来るまでに3、4年かかるのが普通です。しかし、今回のスピードはけた違いです。

 

今回学んだことの中で、キャリアのもっと早い段階で学びたかったと思うものはありますか?

この2か月で、私の中で強固になった考えが2つあります。1つ目は、成功とは上手くいったことと上手くいかなかったことの総量だというものです。上手くいかなかったことからも、必ずと言っていいほど有益な情報や体験が得られ、注意深く見ればそれを活用することができます。このとどまるところを知らないCOVID-19の緊急事態の中で、私たちは困難な状況をひっくり返し、やり直すのではなく前に進むことをすばやく学ばなければなりませんでした。やり直す時間などなかったからです。

もう1つは、どれだけ急を要する状況だとしても、問題に対して包括的かつ長期的なアプローチとビジョンを持つことの重要性です。私たちは最先端のコンピューターで最先端の研究を行っているので、些末な情報にとらわれてしまいがちです。実際、些末な情報に注意を向けることは重要です。しかし、常に全体図から目を離さないようにする必要があります。そうでなければ、間違った方向に行ってしまうリスクがあります。

 

停滞期を脱する一番のコツは何ですか?

頭をクリアにして、考え方を変えることです。私はこのCOVID-19の時代にも、複数のプロジェクトに取り組んでいます。1つのプロジェクトに行き詰まったとき、別のものに集中すると上手くいきます。前の問題に戻った時に、新しい視点で見ることができるのです。人間は、自らの思考にとらわれてしまうことがあります。

 

どのような人や物があなたにインスピレーションを与えますか?

幸運にも一緒に働いてくれる人、そのひとりひとりがインスピレーションを与えてくれます。一緒に仕事をしたり、交流があったりしたノーベル賞受賞者から、研究所に参加した大学の新入生まで、全員です。そして、とても気が合う同僚や、そうではない、時に我慢しなければならないような、言うなれば難しい同僚たちもです。その全員が本当の宝物です。

若いころは、それを動かしている人たちよりもスーパーコンピューター自体に感銘を受けていました。しかし、スーパーコンピューターがどれほど素晴らしくても、それを使っている人間には決してかないません。私たちがCOVID-19研究に使用しているHPEのスーパーコンピューターは、夢のようなマシンです。しかし、科学的および技術的な専門知識と、チーム全体のサポートがなければ役に立ちません。スーパーコンピューターにどれほどの力があっても、大事なのは人間です。

 

ご自身のモットーは何ですか?

ラテン語なのですが、「per angusta ad augusta」という言葉です (高校では古典を専攻していました)。問題を解決して名誉を得る、または困難を乗り越えて成功するといった意味です。

これは、辛い時期にもめげないようにするための心がけです。しかしこの言葉には別の意味もあり、私にとってとても重要です。つまり、成功までの道のりは栄光に満ちていなくても、理路整然としていなくても、美しくなくても、上品でなくても、そして普遍的でなくてもいいということです。新しい問題の解決には、しばしば実践的で、風変わりで、経験を頼りにした、リスクを伴うアプローチが求められます。

このモットーを分かりやすく言えば、「できることをしろ、恐れるな」となるでしょう。これは、私が製薬業界で学んだことです。まだとても若かったころ、一流大学でPhDを取得して研究員となったばかりだった私は、仕事でミスをして失敗することを恐れていました。働いていたスタートアップの上司でありメンターであった人が、本当の失敗とは挑戦しないことだけだと気づかせてくれました。決して忘れません。

 

休息とリフレッシュの方法を教えてください。

家族です。家族が一番大切です。テレビを見たり、遊んだり、音楽を聴いたり、料理をしたり、政治について議論したり (家族で意見が大きく分かれます)、何でもいいのです。何もしなくたっていいのです。妻と子供たちの近くにいるだけで、エネルギーが湧いてきます。

 

一度も、またはほとんど尋ねられなくて驚いている質問はありますか?

実のところ、この質問ですね。これまで誰もこの質問を尋ねなかったことに驚いています。

 

書籍、映画、音楽のおすすめはありますか?

私は同じ作品を何度も繰り返し読んだり観たりします。瞑想のような効果があるし、常に違った感じ方ができるからです。フィリップ・グラスの反復的な音楽のようなものです。いつも同じもののように思えますが、実際は常に新しい体験があります。こちらの心の持ちようが違うからです。つまり、私が好きなのはグラスやブーレーズなどの、ミニマリスト的な20世紀の現代音楽です。そのような音楽はしばしば、インドの伝統音楽のように、繰り返されるテーマを中心に発展していきます。

文学ならロシア文学のようなゆったりとした文学 (電話帳を読んでいるような気分になることがありますが、それが好きなのです) で、映画ならキューブリックの『2001年宇宙の旅』か、ロシア版とも言えるタルコフスキーの『ソラリス』が好きです。つまり、SFが好きなのです。たくさんのコメディ作品を繰り返し読むのも好きです。特に気に入っているのはフランス人作家のマルセル・パニョルとアルベール・コーエンです。コメディ文学の二大巨頭で、20世紀のアリストファネスと言えます。

また、ベルギーとオランダの暗い空と海辺を描いたフランドル派の絵画も好きです。そしてもちろん、アラバマ州北部の素晴らしい夕焼けも大好きです。実際、最も感動したものかもしれません。ダンスでは、ミニマリスト的な現代的振り付けが好きです。つまり、ベジャールやプティですね。私の芸術に対する興味は、ミニマリスト的、瞑想的な作品を楽しむことに結びついています。おそらく、現在行っている科学研究のペースの速い、行動を基準とする性質のせいでしょう。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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