2019年7月19日

ブロックチェーンによる社会変革の可能性

ブロックチェーンは社会的インパクトの創出に適しており、当初考えられていたよりも近い将来に、大きな変革を引き起こす可能性があります。以下では、世界をより良い方向へと導くためにブロックチェーンがどのように活用されているか、および重要な社会問題をブロックチェーンによって将来解決できる可能性について説明します。

ブロックチェーンは、今後数年で企業やビジネスコンソーシアムに多大なメリットをもたらすと期待されていますが、それと同時に注目が高まっているのが、ブロックチェーンによる社会的インパクトの創出です。ブロックチェーンによる透明性の向上、トランザクションコストの低減、およびデジタルIDの保証は、社会を変革する可能性を秘めています。期待される成果としては、不正行為や汚職の減少、貧困層が世界の経済活動から恩恵を得るための支援、より安全で信頼性の高いフードチェーンの構築などが挙げられます。
以下では、ブロックチェーンが重要な社会問題の解決に役立つ理由、およびその活用方法について説明します。

 

社会的利益のための大きな前進

社会的インパクトの創出にブロックチェーンを活用する方法を理解するには、スタンフォード大学ビジネススクールの ソーシャルイノベーションセンターとRippleworks社の共同後援により実施された調査が役立ちます。2018年半ばに終了したこの調査は、公益のために何らかの形でブロックチェーンを使用している193の組織およびプロジェクトを対象に行われたものです。
調査結果は驚くべきもので、本調査に関するスタンフォードビジネススクールのブログ投稿によると、調査対象組織の約86%が「真の問題解決に向けて着実に前進しており、「誇大宣伝」のカテゴリに分類されるのはわずか14%」でした。またプログラムの55%が1年以内にインパクトを生み出すと予想されています。
「ブロックチェーンは未だ黎明期にあります」と、スタンフォード大学で調査責任者および講師を務めるDoug Galen氏は説明します。Galen氏は、新興企業やテクノロジーエキスパートをソーシャルベンチャーと結び付ける役割を担っているRippleworks社の共同創設者兼CEOでもあります。「イニシアチブの現状と活用範囲の広さは、私にとってうれしい驚きでした。ブロックチェーンは、当初考えられていたよりも近い将来に、社会的インパクトを生み出す可能性があります」。
この調査では、社会的利益を追求している組織にブロックチェーンが提供する4つの主要なメリットとして、透明性、不変性、運用コストの低さ、および個人またはオブジェクトのデジタルIDを保証する能力が挙げられています。例えば、災害義援金の30%が途中で消えている現状を考えると、ブロックチェーンの透明性により不正行為を減らすことで、より多くの義援金を被災者に届けられる可能性があります。またブロックチェーンの不変性は、選挙における不正行為を阻止したり、医療記録の保存やサプライチェーンの監視を通じて医薬品や商品の安全性を保証したりするのに役立つと期待されています。

 

金融包摂と仲介者の排除に最適

ブロックチェーンは、その運用コストの低さから金融包摂に最適で、これまで金融サービスから締め出されてきた人々にも金融機関や金融システムのメリットを提供できます。今日ブロックチェーンは送金取引における仲介者の排除に活用されつつあり、発展途上国から先進国に働きに来ている労働者が多額の手数料を取られることなく家族に送金することを可能にしています。これは非常に大きな成果で、先の調査によれば、全世界の外国人労働者が自国に送金している額は5億ドルに達します。ブロックチェーンはすでに、ヨルダンで暮らす1万人のシリア難民による送金を容易にするため、国連世界食糧計画によって活用されています。
Galen氏は次のように述べています。「仲介者を経由することなく、蔓延している不正を回避して、目的の相手に直接送金できるという事実は、全世界の何億もの人々に多大なメリットをもたらします。このようなコストの削減、および仲介者の排除による分け前の増加は、生活水準が貧困ラインの上か下かを分ける差となる可能性があります」。

 

検証可能なIDはあらゆる銀行業務の基本

金融包摂にはデジタルIDの保有が不可欠ですが、発展途上国では10億を超える人々がデジタルIDを保有していません。有効なIDを持たない人々は世界の経済活動から締め出されています。IDCレポート「IDC FutureScape: Worldwide IT Industry 2019 Predictions」によると、「15億人以上が身分証明書を保有していないことを理由に、21世紀の経済活動から事実上締め出されており、また金融サービス、医療サービス、行政サービスなどを受けられずにいます」。
ブロックチェーンは、この極めて重要なデジタルIDの付与に使用できます。HPE Pointnextでブロックチェーン担当チーフアーキテクトを務めるJames Cohen氏は、次のように述べています。「多くの発展途上国では国民IDカードが存在しないため、国民が身分を証明するのが困難です。あらゆる種類の銀行業務には検証可能なIDが欠かせませんが、ブロックチェーンはこのIDの付与に使用できます」。

スタンフォード大学による調査結果は、Accenture Labsのホワイトペーパー「Blockchain for Good: Guidelines for Transforming Social Innovation Organizations」によって裏付けられています。このホワイトペーパーは、NGOなどの組織によるさまざまな社会問題への取り組み (人身売買の監視、土地利用記録の復元、飢餓に苦しむ人々への食糧配給など) にブロックチェーンが使用された30のユースケースの詳細な調査結果を分析したものです。同文書によると、こうしたユースケースにおけるブロックチェーンの主な利用目的の1つが透明性の向上で、土地登録時の汚職や身内びいきの軽減などに役立てられています。ブロックチェーンベースの土地登録システムは誰でも見ることができるため、不正行為が露見しやすくなります。Bitlandと呼ばれるガーナのブロックチェーンベースのパイロットプログラムでは、土地登録にこうした手法が採用されています。

 

新興企業やNGOの域を超える利用の拡大

社会的インパクトのためのブロックチェーンの活用は、ソーシャルイノベーションに重点を置いたNGOや新興企業だけでなく、経済活動の中核を担う企業にも拡大しており、その多くは大規模企業です。FBIの統計によると医療保険詐欺は年間400億ドルに達しており、保険業界ではその対策としてブロックチェーンに注目している、とCohen氏は説明します。不正行為を排除することで、「一般の人々の医療保険料を大幅に引き下げられる」と同氏は述べています。さらにCohen氏が指摘するように、ブロックチェーンによる医薬品サプライチェーンの安全性向上は、健康被害を起こしかねない偽造薬の排除にも役立つと期待されています。
「現状では大量の偽造薬が流通しています」とCohen氏は指摘します。「薬剤師がそれと知らずに偽造薬を調剤した結果、本来助かるはずの命が失われる事態も起こりかねません」。
シンクタンクBlockchain for Goodの創設者であるCecile Baird氏も、ブロックチェーンによるサプライチェーンの透明性向上について、Cohen氏と同様の見方をしています。「ブロックチェーンの導入により、企業は自らの行動および運営方法により責任を負うことを求められます」とBaird氏は指摘し、ファッション業界を例に挙げています。ファッションサプライチェーンの透明性が向上して、消費者に対してよりオープンになると、衣料品を購入しようとする人は、商品が倫理的な方法で製造されているか、すなわち児童労働を利用したり、労働者を極端な低賃金で働かせたり、危険にさらしたりしていないかどうかをチェックできるようになります。
Baird氏はまた、ブロックチェーンは「ソーシャルメディアを変革」する可能性があり、とりわけ、ソーシャルメディアによって収集された個人情報が広告主に販売される方法が大きく変わると見ています。ブロックチェーンベースのシステムでは、人々は自身の個人情報のうち、どのデータについて収集および販売を許可するかを制御でき、また使用された情報の対価を得ることも可能になります。
ブロックチェーンは、小規模な組織による社会貢献にも、さまざまな手法で活用されています。ブロックチェーンを専門とするコンサルティンググループUnblocked FutureのCEOを務めるAlison McCauley氏は、さまざまな事例に言及しています。その1つが海洋プラスチック汚染問題に取り組むPlastic Bankで、この組織ではブロックチェーンプラットフォームを介して、人々が回収したプラスチックに報酬を支払うことで、汚染を減らすと同時に、低所得者層の支援にもつなげています。

 

成果が現れるまでの時間

暗号通貨のための利用は別として、企業によるブロックチェーン導入の動きは鈍く、大企業による営利目的の利用が広がっていないことを考えると、社会的利益のための利用にはより一層の時間がかかるであろう、と悲観的な見方をする人もいます。
しかしながらCohen氏の見方は異なります。同氏は、社会的利益を目的とするブロックチェーンの利用は、営利目的での利用を追い抜く勢いで拡大すると見ています。「ブロックチェーンの普及には予想以上に時間がかかっていますが、社会的利益の側面では成果が比較的短期間で得られるため、まずはこの領域においてブロックチェーンの利用が拡大すると思われます」とCohen氏は指摘します。「例えば製薬会社は、サプライチェーンから偽造薬を排除することを切望しています。偽造薬は製薬会社に、財務面の損失に加えて、評判の低下による多大なダメージをもたらす恐れがあります。こうした理由により、さまざまな方法で、社会的利益のためのブロックチェーンの利用が拡大しています」。

 

ブロックチェーンによる社会貢献: リーダーのためのアドバイス

  • 社会的利益のためにブロックチェーンを使用している企業の約86%が、真の問題解決に向けて着実に前進しています。

  • ブロックチェーンの主なメリットの1つが、世界の経済活動に参加するために必要なデジタルIDを人々に付与できることです。

  • ブロックチェーンベースのソリューションを使用することで、医薬品や食品などのサプライチェーンの透明性が向上し、消費者に対してよりオープンになります。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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