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2021年12月10日

エッジでのAI活用

人工知能アプリケーションは、軽量化し続ける一方、ユーザーに近いデバイスで活用されるようになりつつあります。
これまで、人工知能の利用はデータセンター内に限られており、データセンターでは、経験豊富なプロフェッショナルによって管理された高性能なコンピューターが、複雑なアルゴリズムの実行を任されてきました。AIの機能がエッジのデバイスへと急速に移っていく中、企業のさまざまな領域で、そうした状況が変わろうとしています。

その背景と仕組みを理解するには、まず、今日の企業におけるエッジとは何かを理解する必要があります。AIの世界では、基本となる2つのエッジにAIが展開されており、これらのエッジは一般的にニアエッジ (中央のデータセンターに比較的近いエッジ)、ファーエッジ (データが生成される場所に近いエッジ) と呼ばれています。それぞれのエッジで、AIの適用例は異なります。

ヒューレット・パッカード エンタープライズでAIおよびデータプラクティス担当CTOを務めるGlyn Bowdenによると、ニアエッジとは、データセンター外にあるものの、データセンター内と同様の機能を備えた領域を指します。また、ニアエッジ拠点は「工場の建物や病院など、十分に堅牢な環境でコンピューティングを実行できる場所」にあたり、そのような拠点では、標準的なサーバーファームが従来の方法で設計されていないこともあります。また、こうした拠点は、十分なコンピューティング、ネットワーキング、およびストレージの機能が利用できるにもかかわらず、リモートで管理されており、熟練したITプロフェッショナルがオンサイトでサポートしていることはまずありません。

ニアエッジは、極めて一般的なコンピューティング機器およびリソースによって定義されます。従来型のコンピューティング能力を利用できることから、ここではモデルのトレーニングと予測分析を実行できます。それに対して、ファーエッジは異なる種類のデバイス (通常は、カメラ、産業用センサー、ドローン、さらにはユーザーのスマートフォンなどの個人用デバイスをはじめとするIoT製品) に関係するものです。

ファーエッジは、データが実際に収集される場所、またはデバイスがエンドユーザーと直接やり取りする場所を指しています。こうしたデバイスでAIモデルを訓練することはできませんが、開発済みのモデルを利用することができます。ファーエッジにおけるAIは、利用可能なデータが少ない場合でも迅速に意思決定できるように設計する必要があり、通常は1つのタスクのみを対象とします。

どちらの種類も、すでにエッジ対応のAIが登場しています。S&P Global Market Intelligenceの子会社である451 Researchのアナリスト、Ian Hughe氏によると、2020年の『Voice of the Enterprise』の調査で、回答者の60%がエッジでデータの分析や保管を行っていることが明らかになりました。

エッジのユースケース

エッジのAIが重要となるのはなぜでしょうか。エッジベースのAI機能をエッジで使用できれば、便利になるというだけではありません。多くのケースで、AIは必要不可欠なものとなっています。

病院でのニアエッジの例を考えてみると、AIは医療環境のさまざまな領域に適用可能であり、その用途は、医師による大量のデータに基づいた適切な診断のサポートから、各種疾病の治療法およびワクチンの研究に至るまで、多岐にわたります。今日の病院は、センサー、スキャナー、大量の患者データで埋め尽くされていますが、HIPAAやGDPRといったプライバシー規制によってデータを建物の外に持ち出せないこともあり、従来のコンピューティング環境ではこうしたデータのすべてを活用することが困難となっています。Bowdenによると、「病院の敷地内で、そうしたデータについてのモデルのトレーニングができれば」、AIツールをさらに有効活用できます。

インターネットに接続されていない環境や、信頼できる高速なネットワークサービスを通じて企業のデータセンターに接続されていない環境にも同じことが言えます。今日の工場の多くは、開発途上地域や僻地など、現在も高速インターネットアクセスを利用できないか、利用できたとしても多額のコストがかかる場所にあります。

工場環境にAIを直接取り込んで機械学習を活用すれば、運用の最適化、機器の故障予測、製造ミスの迅速な特定が可能になり、経済的な損失を最小限に抑えられます。Relimetrics社は、こうしたテクノロジーを実際に利用している企業の1つであり、コンピュータービジョンと機械学習を利用して、顧客の生産ラインからはじかれた部品を検査する産業用機器を開発しています。このように機器レベルにAIを組み込むことで、同社の顧客における不具合が推定で25%削減されました。

製造を監視するAIアルゴリズムがなければ、機械は、理想的とは言えない状態で長期間稼働することになり、故障するリスクも増大します。「機械なら、ものが流れているときに止めるか止めないかを判断できます。データセンターに戻ってオペレーターにそのための電話をかけてもらわなくても済むのです」とBowdonは述べます。「機械によって、リアルタイムにそういった判断ができれば、多くのロスを防いで、非常に効率的に運用できるようになります」。

ファーエッジでは、AIの用途がさらに絞られます。と言うのも、個々のデバイスが備えているプロセッサー (MRI装置や、生産ラインで稼働するロボットアームなどのマイクロチップ) の性能は、データセンターの処理能力に遠く及ばないうえ、こうしたデバイスは、広範なニアエッジ環境で利用できるようなデータストアをもちません。

こうした例のAIは、同じように重要であるとはいえ、さらに簡素化された専用の機能を備えています。「このように、スモールモデルで非常に特殊なことを行っています」とBowdenは話します。これには、画像を撮影する前に患者が正しい姿勢をとっているかどうかを判断する医用画像装置 (データセンターには接続されていない場合もある) や、継続的に動作温度を分析して微調整することで、可能な限り高い製造品質を維持する産業用機器などが含まれます。

医療テクノロジーでは、エッジベースのAIについても強固なデータプライバシーのユースケースがあります。「データが保存されているエッジで判断できることが多ければ多いほど、プライバシーの面で、顧客にとってのメリットも増えます」とHPE Pointnext ServicesのシニアデータサイエンティストであるIveta Lohovskaは話します。「こうした問題に気付き始めたお客様が増えていると思います」。

重要なのは、これが大きな成長を遂げている市場であるということです。Bowdenは、「エッジにはさまざまな機能があり、常に変化し続けています」と述べます。

AIの小型化は、AIの効率化だけでなく、AIの増加も意味しています。

AIの発展

エッジベースのAIは、病院や工場の業務改善に役立っているだけでなく、モバイルアプリケーション (具体的には、自動運転車) に欠かせないツールとなりつつあります。「それが自動運転の実現につながっています」とBowdenは話します。「壁の前で止まるべきかどうかを判断するのに、データセンターと通信しなければならない車には乗りたくないでしょう。そうした車に乗っていれば、運転の判断はその場で下してほしいと思うはずです」。

高解像度カメラを搭載したドローンについても考えてみましょう。ドローンが観察対象をリアルタイムで分析し、たとえば、観察している農地の作物の状況を確認したり、軍事目標の正当性を判断したりすれば、成果と精度の両面を改善することができます。「ドローンは、有効な推論を返すのに十分なデータを処理できる場所で、インターネットに接続できない場合があります」とBowdenは話します。「このため、デバイス上で自ら推論する能力が求められます」。

たとえば、無線信号が貫通しないトンネルの点検に使用されるドローンでは、同時に何台も飛行することも少なくありません。よく事故が起きますが、「もし事故が起こっても、AIがあれば、残りのドローンで簡単に穴埋めできます」とBowdenは話します。

AIは、航空業界でも重要な役割を果たしています。自動操縦システムメーカーのDaedalean社でCEOを務めるLuuk van Dijk氏が、「当社のアプリケーションは航空機の目と視覚野を提供するものです」と話すように、エッジベースのAIは民間航空機における主要テクノロジーとなっています。飛行機にデータセンター一式を搭載することはできません。あまりにも大きくて重いだけでなく、膨大な電力を消費するためです。今では、地上と同じように空でも、エッジベースのAIツールを使用してナビゲーション、航空交通の監視、着陸誘導を行っています。

「接続に問題がある、リモートディスパッチャーがいない、またはGPS信号がなく、目視に頼らなければならないときに、このツールは必須です」とvan Dijk氏は話します。そして重要なのは、これらすべてをほぼ瞬時に実行しなければならないことです。「カメラの信号を受信して処理し、状況に応じた情報を送り返すリモートAIは、機内では単なる選択肢の1つではありません」。

今後の見通し

エッジベースのAIが実現しつつあるのは、すべてが同時に頂点に達しつつある、さまざまな要因が組み合わさったからに他なりません。もちろん、小型軽量化により、さらに小型かつ低消費電力のマイクロプロセッサーと高密度ストレージが生み出されたことで、これまでより少ないスペースにより多くの処理能力を詰め込むことが可能となっています。しかし、それよりも重要なのは、業界でAIモデルをますます効率化できるようになり、そうしたモデルが非常に移植しやすくなったことです。

「モデルを圧縮し、軽量化を実現しています」とLohovskaは話します。エッジのケースでは、アルファベータ法などの手法を利用してAIアルゴリズムにおけるノードの総数を減らし、最も可能性の低いものを実質的に排除することで、モデルのスピードを向上させてサイズを縮小しています。

AIの小型化は、AIの効率化だけでなく、AIの増加も意味しています。「AIが小型化しているということは、より多くのAIを使用できるようになったということでもあります」とLohovskaは言います。そうしたAIの増加によって、さらに多くの処理をエッジに移行できるようになるという好循環が生まれています。

「エッジで対応できることが増えれば増えるほど (ワークロードの分散が進めば進むほど)、ネットワークの輻輳やデータセンターで利用可能なコンピューティング能力に関する不安を軽減できます」とBowdenは話します。「エッジベースのAIで重要なのは、データの即時性と、ネットワークに接続されていない環境で業務を遂行する能力です」。

もちろん、使用時のテクノロジーの能力を高めることも重要です。「ユーザーと、ユーザーの業務を理解しているアプリケーションなら、ユーザーが使用するデバイスの複雑さも、時間とともに軽減されていくはずです」とHughes氏は話します。「ほとんどのコンピューティングテクノロジーは、ユーザーではなく、機械のニーズに合わせて進化してきました。AIは、そうした領域で役に立つ可能性があります」。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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