2019年10月11日

AIがビデオゲームに及ぼしている6つの影響

AIの導入によりビデオゲームの仕組みは大きく変わり、今後さらなる変化が予想されています。その主なターゲットとなるのがノンプレーヤーキャラクター (NPC) です。
まずは論点を整理しましょう。

  • 一般の人は人工知能 (AI) という言葉から、「未来のテクノロジー」や「ロボットによる人類の支配」といったイメージを思い浮かべがちです。
  • AI開発者がAIという言葉から思い浮かべるのは、実現途上にある自身の壮大な計画です。いつの日か、マシンは人間と同様に学んだスキルを別のタスクに転用できるようになるかもしれません。また人間のインプットなしに判断を下せるようになり、やがては電気羊の夢を見るようになるかもしれません。
  • 一方ゲーム開発者がAIと聞いて思い浮かべるのは、グランド・セフト・オート、スカイリム、レッド・デッド・リデンプションなどのゲームにおいて、NPCの背後で働く意思決定プロセスの中核となるアルゴリズムです。

簡単に言えば、ゲームAIとは、コンピューターエージェントが外部からの刺激に反応する際に従うルールセットにすぎません。最新のゲームには洗練されたルールセットが組み込まれているため、NPCが繰り返している通常の行動がゲームプレーヤーのアクションによって大きく変化します。

AIの純粋主義者は、ビデオゲーム内で動作するAIを「真のAI」とは認めません。彼らが考える真のAIとは、現実のデータによって鍛えられ、現実の状況に対する意思決定を下せるものです。(過去の事例に基づいて新しい何かを識別できるようにAIを鍛えることは、現代のコンピューターサイエンスにおける重要な領域であり、通常「機械学習」と呼ばれます。) ゲームAIの場合はある1つの側面、すなわち人間の行動を模倣するアルゴリズムの作成にのみ焦点が当てられています。しかしながらこの記事では、Temple Gate Games社のCEOであるTheresa Duringer氏による 「AIとは、エージェントによる意思決定を支える、あらゆるコンピュータープロセスを指す」という定義に従ってAIという用語を使用することにします。

AIはあなたが実行するよう命令したことを実行します。AIはあなたの考えを汲み取って (ゲームに) 指示してはくれません。

KATE COMPTON氏 Tracery言語の作者
ビデオゲーマーたちは、開発者によりチェス、チェッカー、およびNim用のプログラムが作成された1951年の昔からAIを使用してきました。しかしながら、AIが世界にその力を見せつけたのは、1997年に行われたチェスの対局においてであり、このときIBM社のディープブルーがチェス世界王者のGarry Kasparov氏との6番勝負に僅差で勝利しました。この時点でAIは、短時間で大量の計算をすることにかけては、マシンの方が人間の頭脳よりも優れていることを実証しました。

今や、アマチュアの愛好家も機械学習を利用できる時代です。例えば、GoogleのAI Experimentsなどの知的な思考実験やTraceryなどの愉快なテキスト生成ツールを誰もが自宅で試すことが可能です。一部の開発者は、ビデオゲームをプレイするようAIを鍛えています。AIが習得したスキルは現実世界に転用できる可能性があり、このことはビデオゲームのAIを使用して他のAIを鍛えられることを意味します。

AIに対して恐怖感とともに興味も感じて来られたのではないでしょうか。それでは詳細を見ていきましょう。(ゲームに登場する危険で魅力的なAI 「GLaDOS」にご興味があれば、こちらをご覧ください。)
 

「人間よりも人間らしく」: AIはゲームプレイをよりリアルにする
AIはゲーム内のNPCやエージェントの動作を生成し、スクリーン上のキャラクターを生き生きと動かすことができると、ウースター工科大学でコンピューターサイエンスおよびインタラクティブメディア/ゲーム開発分野の准教授を務めるGillian Smith氏は説明します。「AIはゲームに命を吹き込みます。」

例えばプレーヤーがあるNPCを狙い撃ちすると、その一味が身の危険を感じて警戒した動作をするようになりますが、これはAIの働きによるものです。彼らがプレーヤーの居場所を特定して、探しに来ることさえあります。またプレーヤーが部屋に足を踏み入れるとNPCが防御姿勢をとることもありますが、これもAIによる制御です。さらにプレーヤーに仲間がいる場合、彼らはプレーヤーが移動するペースに従います。このように優れたAIは、ゲームの世界をより現実的で生き生きとした場所に変えてくれます。

一方AIの能力が低ければ、NPCがプレーヤーに従わすにドアにぶつかり続けていたり、すぐ隣にいる仲間をプレーヤーに撃たれても突っ立ったままでいたりします。このようなバカげた動作は、没入感の阻害につながります。

AIのインテリジェンスは、その背後にいるプログラマのインテリジェンスに依存するため、開発者がなんらかの単純な動作を自明のことと考えているような場合に、さまざまな愉快なトラブルが発生することがあります。コンピューターサイエンス博士号を持つ独立系研究者で、Tracery言語の作者でもあるKate Compton氏は、こうした状況を「エマージェンス (出現)」あるいは「予想外の動作の始まり」と表現しています。

こうしたエマージェンスの一例として、ゲーム世界の住人である「シム」たちによる職場と自宅 (「ノード」と見なされる場所) 間の移動に関して、ある問題が発生したことがあります。彼らはこの移動に、(「エッジ」と見なされる) 歩道を使用する代わりに、(同じく「エッジ」と見なされる) 都市の送電線を使用したのです。キャラクターたちは推定どおりの場所に移動したものの、その経路は極めて非現実的なものでした。

「AIはあなたが実行するよう命令したことを実行します。AIはあなたの考えを汲み取って (ゲームに) 指示してはくれません」とシムシティのテクニカルアーティストとして勤務した経験を有するCompton氏は指摘します。


「運命なんてものはない。未来は自ら作り上げるものだ」: AIはプレイスタイルを臨機応変に変えられる
一部のビデオゲームは、プレーヤーのスキルレベルに反応します。適応型AIはプレーヤーのスキルに応じてゲームの難易度を調整し、高スキルのプレーヤーには難題を課す一方で、そうでないプレーヤーには難易度を下げることで、嫌気がさしたプレーヤーがゲームを離脱するのを防止します。「適応型AIシステムは、プレーヤーのスキルに対応できます」とSmith氏は指摘します。

AIは、プレーヤーのプレイスタイルに合わせて、ゲームをよりエキサイティングなものにすることも可能です。AI研究者でゲーム開発者でもあるTommy Thompson氏は、あるビデオにおいて、Valve社の協力型ゾンビシューティングゲームLeft 4 Deadで使われている「ディレクター」と呼ばれるAIについて語っています。このビデオでThomspon氏は、プレーヤーが受けているストレスの度合いが適切かどうかを、このゲームの仮想ジョージ・ロメロ監督であるAIがどのように知るのかを解説しています。(敵が遠くにいる場合、プレーヤーはストレスを受けていません。一方敵が首に噛みついているときには、プレーヤーは強いストレスを受けています。) Thompson氏によると、「ディレクターは、他のプレーヤーよりもストレスレベルが低いプレーヤーに集中します。」


「我々は君を作り直せる」: AIは古いゲームの外観を改善できる
古いビデオゲームは、スケーリングアルゴリズムのレベルが低く、テクスチャーが粗いため、今日のモニターでプレイするには厳しいものがあります。従来こうした問題の解決には、アンチエイリアス (AA) と呼ばれる技法が使われてきました。先進的なグラフィックスカードでは、低解像度の画像をより多くのピクセルで構成される画像にアップスケールできるように、FXAAやMSAAといった複数のアルゴリズムがサポートされています。これらのアルゴリズムは、周囲のピクセルをサンプリングすることにより、さまざまなレベルの効果を持つ追加ピクセルの色を推測します。

しかしながらAAの能力には限界があります。

今日では多くの (プロおよびアマチュアの) ゲームモッダー (改造者) が、機械学習を通じたAIアップスケーリングによる古いゲームの品質改善に取り組んでいます。(ゲームの画像、またはゲームのコンテンツやアートスタイルに関連する画像を使用して) AIを鍛えることにより、プログラマはより緻密な新しいアートを生成できます。

機械学習の利用はますます容易になっており、古いビデオゲームの改善を目的とするDIY推進コミュニティも急成長を続けています。ゲームモッダーたちは、さまざまなツール (NVIDIA社のGameWorksやESRGAN) を使用することで、数年ではなく数か月でお気に入りのゲームをよみがえらせています。


「光あれ」: AIはゲームレベルを臨機応変に調整できる
同じゲームを繰り返し楽しめるようにするには、どうすればよいでしょうか。これを可能にするのがプロシージャルなレベル生成であり、開発者が与えたパラメーターに基づいてゲームが半ランダム化されます。

例えばマインクラフトでは、単一の入力シードに基づいて世界が生成されます。またスペースシミュレーションゲームのエリート・デンジャラスでは、星系の形成を模倣して4,000億個の星で構成される天の川のリアルなモデルが構築されます。プロシージャル生成を使用することで、古いゲームが馴染みがあると同時に目新しいものになり、無限に再プレイすることが可能になります。

プロシージャル生成にはプレーヤーのアクションへの応答は含まれないため、厳密にはAIではありません。しかしながら、ニューヨーク大学タンドン工科校のコンピューターサイエンス/エンジニアリング学部の准教授であるJulian Togelius氏は、将来的にはそうした機能も組み込まれると見ています。

レッド・デッド・リデンプション2のようなゲームでは、「植生や地勢などの背景コンテンツの生成にプロシージャル手法が使用されています」とTogelius氏は指摘します。「ただし、クエスト、キャラクター、都市、およびその他の重要なコンテンツインタラクションについては、プロシージャル生成は行われていません」。

Togelius氏によると、AIによってプレーヤーの嗜好や行動がモデル化されると、プロシージャル生成されるコンテンツにより、プレーヤーの好みに合ったゲーム内エクスペリエンスが提供されるようになります。「プレーヤーがたどり着く町は、それまで存在しておらず、プレーヤーの嗜好モデルに基づいて構築されたものです。プレーヤーによってロマンチックなコンテンツを好む人もいれば、騎馬レースを好む人もいるでしょう。またシューティングが好きなものの、それほど得意でない人もいます。このような場合には、難易度が低めに設定されます。」

AIプログラマたちは、ゲームコンテンツを生成するための機械学習の最適化に関して大きな成果を上げてきましたが、コンテンツがAI主導でプロシージャルに生成されるようになるまでには、今しばらくの時間が必要です。「開発者はリスクを嫌います」とTogelius氏は指摘します。「彼らはヒット志向で、安全性を重視します。」


「私の先生はチャンドラ博士です。博士は歌を歌うことを私に教えてくれました。お聞きになりたければ、歌って差し上げます」: 人間はAIから学ぶことができる
ビデオゲーム内のAIには、その創造者である人間と同様に欠点があるものの、ビデオゲームはAI分野の進化に貢献すると見られています。

ニューファンドランドメモリアル大学でコンピューターサイエンスの准教授を務めるDavid Churchill氏によると、ビデオゲームは若い世代のAIへの関心を高めるのに役立っています。「教育者である私にとって、ゲーム内のAIは、学生たちのモチベーションを高めるのに最高のツールです」と同氏は述べています。「私が教室に入って、今日の講義はスタークラフトAIについてであると告げると、学生たちは携帯電話をオフにします。ゲームAIは学生たちの関心が非常に高いテーマです」。

また私たち人間がAIからゲームプレイについて学ぶこともできます。Temple Gate社のDuringer氏は次のように述べています。「AIは、人間が先入観のために気づかなかった斬新な戦略を見つけ出せます。私は当社のゲームをデバッグモードにして、AIが得点を重ねる様子をチェックできますが、このようにすると、自分が重要な戦略を見落としていたことに気づかされます」。

AIの「思考回路」は人間とは異なるため、ディープブルーがポーンを犠牲にすることでKasparov氏を困惑させたように、AIの指し手は肉体を持つプレーヤーを驚かせ、ときには戸惑わせます。

AIの設計にあたりDuringer氏率いるチームは、この点に留意しています。「私たちはゲームに勝つ可能性が最も高い指し手を選択するのではありません」と同氏は述べています。「私たちは人間がAIに対して期待するであろう動作について、自分たちのアイディアをまとめます。そうした動作の方が人々に好まれるようです。」


「ゲームをしましょうか」: AIはゲームの外の世界を改善できる
グランド・セフト・オートIVおよびVでは、現実のニューヨークとロサンゼルスがリアルにシミュレートされており、そのAIルーチンはスモッグの匂いを感じられるほどリアルです。そのためこのゲームの世界は、機械学習でAIを鍛えるのに最適なテスト環境となります。

Bloomberg社によると、「(2016年に) ドイツのダルムシュタット工科大学とインテルラボの科学者が、グランド・セフト・オートVから視覚情報を引き出す方法を開発しました。今では複数の研究者が、急成長する自動運転の領域で使用するために調整されたグランド・セフト・オートVソフトウェアを使用して、アルゴリズムを導き出しています」。

AI制御の実車両を道路で走行させるためには多くの経費が必要で、法律面でも課題が多く、また衝突を避けるためのAIのトレーニングで事故を起こすようなことがあってはならないため、実行できるトレーニングの範囲も限定されます。しかしながらビデオゲームを使用すれば、現実に代わるリアルな都市生活のシミュレーション内で、AIに経験を積ませるためのシチュエーションを自由に構築できます。開発者は実際の歩行者を危険にさらすことなく、歩行者に追突してはならないことをAIに教えられます。

(自動運転車の開発にご興味がおありの方は、この進行中のチュートリアルシリーズをご覧ください。)

願わくば、人間の気まぐれな行動がもう少し予測可能なものになりますように。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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