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2021年9月28日

5Gとクラウド: 通信事業者の将来を見据えた戦い

通信事業者のネットワークとクラウドプロバイダーの役割が似通ったものとなる中で、ビジネスモデルの集約が進んでいます。
今では信じがたいことですが、15年前にはスマートフォンは存在しませんでした。AT&Tはスマートフォンが登場するわずか1年前に自社のブランド名を「Cingular」から「AT&T」に変更し、T-Mobileもそうした市場に新たに参入しました。家庭でのブロードバンドの速度が平均5Mbpsと大幅に向上したことで、オンラインの利用に毎月平均23時間が費やされるようになりました。

ブロードバンドとワイヤレス通信を利用する何十億人もの顧客にとって、通信事業者はなくてはならない存在であるようにみえます。しかし、そうしたサービスのコモディティ化が進むと、業界は大きな変化にさらされざるをえません。特に重要なのは、思いがけない理由で競争が始まることです。

5年後には、電話が誕生してから150周年を迎えます。正確に言うと、ベルがその特許を取ったときからです。これからの数年間で通信事業者のビジネスはどのように変わるのでしょうか。何人かのエキスパートにこの業界の将来について聞きました。 

プライベートモバイルネットワークの台頭

小規模な通信事業を自社で運営できれば、AT&TやVerizonと契約して携帯電話サービスを利用する必要はありません。プライベートモバイルネットワークが登場したことで、大企業での、携帯電話サービスの管理方法が変わりつつあります。ワイヤレスキャリアにしか運営できなかった領域を、そうした企業が積極的に手がけるようになったのです。プライベートモバイルネットワークの機能は公共の携帯電話ネットワークの機能とよく似ています。LTE (近々5Gも可能に) を基盤にしていますが、これらを運営するのはワイヤレスサービスプロバイダーではありません。Nichols Communications社のJay Nichols氏によると「プライベートモバイルネットワークとは、一社が所有し運営するLTEや5Gのネットワークを指し、こうしたネットワークは、スマートファクトリー、キャンパス、造船所といった、その会社の資産によって地理的な制約を受けます」

こうしたネットワークが登場したのはごく最近のことです。これは、連邦通信委員会が、Citizens Broadband Radio Service (CBRS) の「イノベーションバンド」として、3.55GHz~3.7GHzの周波数帯を2020年に正式に開放したことで実現しました。8月に実施された優先ライセンスのオークション金額は46億ドルにも上りました。

現在、企業によるモバイルネットワークが積極的に展開されつつあり、Celonaなどが、その実現に必要なインフラストラクチャを提供しています。つまり、プライベートネットワークを実現した企業が、これまで通信事業者が手がけてきた事業に参入し、Wi-Fiネットワークと同じように携帯電話サービスを管理できる状態にあるのです。

ZK Research社の主席アナリストであるZeus Kerravala氏は、「5Gを実現できる企業は、市場で最大限の利益を得られる可能性が高い」と見ています。HPEの子会社、Arubaは、Celonaの製品を再販売しています。

5Gが利用できれば仕事の環境が根本的に変わります。従業員がほぼすべての業務をどこからでも行えるようになります。
HPE通信・メディアソリューションズCTO、JEFF EDLUND

通信事業者がクラウドプロバイダーに感じるプレッシャー

「ハイパースケーラー」と呼ばれ、大規模なクラウドサービスを提供するAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureが、通信事業者にとって新たな脅威となっています。こうしたハイパースケーラーによって、通信事業者のビジネスが大きく変わろうとしているからです。HPEコミュニケーションテクノロジーグループのシニアバイスプレジデント、Phil Mottramは次のように指摘します。「ソフトウェア開発者は、AWSなどのクラウドプラットフォームにアプリケーションを展開しています。5Gとエッジテクノロジーが利用できるようになれば、今度はエッジ付近にその一部を展開してレイテンシを改善しようとするでしょう。それによって、クラウドプロバイダーと通信事業者との競合が生じます」

今後5年間で市場は再編成されるでしょう。これまで通信事業者が提供していたサービスをハイパースケーラーが提供するようになり、ハイパースケーラーの領域だったコンピューティングサービスを通信事業者が手がけるようになります。Mottramによると、「実際のところ、両者は何らかの形で提携していると思われます。しかし、その地位を失った場合、通信事業者は競争力の維持が難しくなるでしょう」。市場競争が過熱したときに、どちらが優位になるかはわかりませんが、アナリストのRoz Roseboro氏が最近執筆した記事によれば、「規模という点では、Amazonの競争力を大きく凌ぐのは非常に困難です」

右肩下がりの有線通信業界

有線通信ビジネスの市場は、少なくともここ10年間縮小し続けています。2011年のアメリカでは1,220億ドルでしたが、2020年にはその半分以下になり、毎年約7%縮小しています。もちろん、こうした縮小の背景には、とどまるところを知らないワイヤレス通信市場の拡大があります。世界的に見ると、この業界の2019年の市場規模は75億ドルです。それが21%以上の成長率で推移し、2025年には162億ドルに達すると見られています。

有線ネットワークが徐々に衰退していくことは誰もが予想できますが、有線通信システムは、いまだにかなりのシェアを占めています。ワイヤレスネットワークでは実現できないものがあるからです。そう、速度と信頼性です。数百人規模のオフィスでインターネットに接続するには、有線ブロードバンドの導入が最も高速で効果的。それが、長い間の常識でした。

しかし、5Gサービスが展開されるようになり、そうした考え方に変化が生じています。5Gなら、有線ソリューションに引けを取らない信頼性と速度を実現できるからです。アクセスポイントの近くにいなければならないという束縛からも解放されます。モバイルユーザーが増加し続ければ、有線ビジネスは、おそらくこれまで以上に急速に、衰退の一途をたどることになるでしょう。HPE通信・メディアソリューションズCTO、Jeff Edlundは、「5Gが利用できれば仕事の環境が根本的に変わります。従業員がほぼすべての業務をどこからでも行えるようになります」と語っています。

有線ネットワークの救世主は光ファイバーか

光回線が将来どの家庭でも利用されることを想定して、1990年代に、高速光ファイバー網の敷設が本格的に開始されました。こうした光ファイバー網はなくなることはありません。それどころか、世界のある地域では拡大が進んでいます。

実例を挙げます。Mottramによると、オーストラリアは最近、35億ドルの計画を立ち上げました。この計画では、2023年までに合計800万世帯が光ファイバーによる直接接続を申請できるようになります。長年構想されてきたオープンアクセスのNational Broadband Networkで、ギガビットの速度が実現するのです。しかし、世界中のプロバイダーがすべてこれに続こうとしているわけではありません。Googleは高速の光接続を家庭で直接行えるようにしようと、2010年にGoogle Fiberプロジェクトを大々的に開始しましたが、2016年以降保留にしています。ワイヤレスネットワークに再び注力することになったからです。Verizonも2010年にFiOSネットワークの大部分で拡大を取りやめました。

新たな規制下での対応

米新政権は、ハイテク業界での独占的立場の乱用に対して新たな是正策を講じようとしています。こうした動きは、陰謀による「フェイクニュース」や、内政干渉への対処が困難になっていることを受けたものであり、これによって、テクノロジー業界での規制がこれまでになく強まるとみられます。コンピューティングやコンテンツサービスの提供に力を入れ、市場を維持しようとする通信事業者は、同じ業界のほかの事業にすでに混乱をもたらしている規制、たとえばGDPRやCCPAなどの影響を受けることになるでしょう。

特に注目すべき点は、1996年に策定され、ユーザーの投稿に対してオンラインプラットフォーム側の免責を認める米通信品位法 (Communication Decency Act) 230条の今後です。トランプ大統領は、2020年に、230条による保護を撤廃するように働きかけました。バイデン大統領も230条をすぐに廃止すべきと述べています。ComcastとVerizonに見られるように、通信事業者、ハイパースケーラー、コンテンツプロバイダーの区別があいまいになっています。こうした企業では、関係する規制法への対策をすぐに講じる必要があります。後手に回るほど対応が難しくなるからです。

リーダーへのアドバイス

  • 通信事業者とクラウドプロバイダーのサービスが集約されつつあります。両者が競合となることが多くなるでしょう。
  • 有線インターネットサービスは依然としてあちこちで拡大されているものの、成長の主役はワイヤレスサービスです。
  • 5Gネットワークは、多くの企業の環境に適しています。とりわけ、産業界の企業で有効に利用できます。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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