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2019年4月16日

宇宙探査の加速に向けて克服すべき5つの課題

宇宙探査の技術には、急速な進展が期待されています。しかし、この目標を達成するには、まず5つの基本的な課題に対応できなければなりません。

宇宙は、わずか100キロメートル上空に広がっていますが、高度な訓練を受けた世界の宇宙飛行士や少数の裕福な旅行者を除いては、どう表現しようとも、私たちが行ったことのない文字どおり地球の外側 (アウタースペース) にある場所です。

宇宙開拓は大がかりな事業です。この挑戦は、公共部門にとって、知識とイノベーションを拡充する可能性を秘め、急成長中の民間宇宙産業にとっては、巨額の利益を得られる可能性に満ちています。

11月1日にニューヨークで開催されたThe Economist誌のSpace Summitでは、パネリストが宇宙探査やNASAの戦略のほか、最後の未開拓地に到達するには何が必要かについて、お互いの知見を共有しました。

 

高速の安定したデータ伝送

国際宇宙ステーション (ISS) を支えるコンピューターは、特別な仕様によって、予測不能な低重力と宇宙線から保護されています。しかし、こうしたコンピューターは強固な鋼のように見えても、最先端とは到底言えません。NASAが使用するコンピューターが宇宙に向かうときには、その多くが10年古くなっています。そう語るのは、ヒューレット・パッカード エンタープライズでHPCとAIのバイスプレジデント兼CTOを務めるDr. Eng Lim Gohです。宇宙に必要なのは、時代遅れにならないスーパーコンピューターなのです。

その目標に向けて、GohはSpaceborne Computerの開発を支援しました。この商用スーパーコンピューターは、厳しい宇宙環境で1年間稼働するというミッションを果たしたばかりです。このミッションで、Spaceborneは、最適化されていない状況の中、自律型のソフトウェアを使用して「1T (テラ) FLOP (1秒間に1兆回の浮動小数点演算) を達成」した、とGohは説明します。Spaceborne Computerは、トラブル (「1回の電源装置の故障」と「4回の再起動」) を起こしたものの、稼働し続けました。

Gohは、宇宙探査と宇宙実験を行う人々にスーパーコンピューティングサービスを開放すると発表し、この新たな開発を「Above-the-Cloud Service (クラウドを超えるサービス)」と呼びました。コンピューターがクラウド、つまり雲の上のISSにあるのでそう呼んだのです(と、オチを説明すると、残念ながらジョークがつまらなく聞こえます)。

「宇宙でデータを収集する高帯域幅のセンサーと、地球と断続的につながる細い「線」(著者注: Gohはここでエアクオートを使いました) を利用します」とGohは語ります。それでも、Spaceborne Computerなら、未処理のデータを地球に送り返さなくても済み、送信するデータ量を削減できます。宇宙飛行士は、大量のrawデータではなく、処理後のデータのみを地球に返せばよいのです。

処理用のサービスが必要であるという事実は、ステーションが位置する地球の低軌道でも重要ですが、データがさらに長い距離を移動する火星でのミッションでは、そのことが一層重要になります。火星の場合、地球にデータを送信するのに22分もかかります。

しかし、Above-the-Cloud Serviceを使用すれば、宇宙飛行士は「センサーのある場所でより多くの処理を行えます」とGohは補足します。スーパーコンピューティングサービスを軌道上で利用できることで、宇宙飛行士やベンチャーの開発者による、宇宙での探索、調査、実験に弾みがつきます。「(Above-the-Cloud Serviceは) 理想のプラットフォームです」とGohは語ります。

HPEは、宇宙飛行士が、雲の上で先進的な宇宙探査を行えるスーパーコンピューティングサービスを初めて実現したのです。

最適な機能を備えることが実証されれば、Spaceborne Computerは、火星への道を切り開くことになります。火星では、GPSによって、宇宙船を正確に着陸させたり、コロニーの建設を支援したりできます。

Spaceborne Computerは、ミッションクリティカルなシステムは実行しません。しかし、それでよいのです。AIに宇宙船を任せると何が起こるかを誰もが知っています。

 

STEM教育の優先

宇宙開拓の先陣を切る科学者のチームなくして、宇宙には到達できません。そして、STEM教育を受けるきっかけがなければ、科学者のチームは生まれません。

「科学、技術、工学、数学 (STEM) とコンピューターサイエンスに堪能な子どもたちが必要です」と、国立航空宇宙博物館のディレクターであるEllen Stofan氏は語ります。「それは、労働力に関わる問題です。未来におけるキャリアとは、まさにテクノロジー分野におけるキャリアです。特に宇宙は、子どもたちにそうしたキャリアへと進むためのきっかけを与えます」。

STEM教育が必要になるのは、将来の宇宙産業だけではありません。Emerson社の調査によれば、米国では2025年までに、製造業だけで200万のSTEM関連業務に人手不足が生じると予測されています。労働人口の不足によって業界が徐々に不振に陥り、米国の収益が最低となる可能性があります。

いくつかの公共団体が、宇宙に焦点を当てたSTEMを学生が進んで学習したくなるような取り組みを行っている、という良いニュースもあります。NASAは、多数のプロジェクトを実施しており、その1つ、中高生を対象としたZero Roboticsコンテストでは、優勝者が自分のコードをISSで実行できます。ガールスカウトアメリカ連盟では、バッジを作成して、将来の宇宙飛行士候補たちに、望遠鏡の操作や夜空の観察などを奨励しています。Teachers in Spaceでは、微小重力の風船、高空飛行、そしてISSの2つの事例で、実験を計画する手順を学生に教えられるように、教師を指導しています。(編集者注:  透明性のために言うと、著者はTeachers in Spaceの理事会のメンバーです。)

STEM教育を通じて優秀な学生になれることを、子どもたちが心に留めてくれればと、私は願っています。

 

莫大な費用

2018年の予算が191億ドルと聞くと、NASAには、宇宙で必要なあらゆるものを送り込むのに十分な資金があるように思えます。しかし、残念ながらそうではありません。「課題の1つは、すべてに莫大な費用がかかることです」。MITの天文学者、Sara Seager氏はそう語ります。トイレの使用を例に挙げると、地球ではトイレットペーパーを買う程度で済みますが、宇宙のトイレでは1900万ドルもかかります。このコストの違いは非常に重要です。

最近では、NASA以外の団体も開発競争に加わっています。今年までに17回の打ち上げを実施し、Tesla Roadsterに火星の軌道を通過させたSpaceX社の実績はよく知られています。民間の宇宙産業が急速に拡大し、投資家の関心を集めているのです。

The Economist誌のOliver Morton氏は語ります。「ベンチャーキャピタルは宇宙に目を向けています。その理由は、宇宙が制限なく開かれた場所であることです。それで、投資家は進んでリスクを受け入れているのです」。

宇宙関連の企業は、2017年に39億ドルの投資を受けています。また、投資家グループSpace Angelsの業界分析によると、2018年の投資先とその金額は、ロケット打ち上げ関連企業のみで10億ドル、衛星関連の企業で3億7000万ドルでした。このグループは、今では1,300社以上の動向を追跡しており、その対象は、Vector Launch社のような比較的新しいスタートアップから、NanoRacks社のような地位を確立した企業まで広範にわたります。

ベンチャーキャピタルによる投資が始まったのは2015年初期で、当時、商用の宇宙事業全体で18億ドルが投じられました。Fortune誌によると、その金額は、「前年までの15年間でこの業界に投資された合計額のほぼ2倍」です。

民間の宇宙企業への投資では、現在その対象が、有人宇宙飛行ではなく、小規模な打ち上げと衛星に集中していることが注目されます。その一方で、SpaceX社やBlue Origin社といった企業は有人着陸を計画しています。

将来の投資家へのヒントになるのは、宇宙産業への投資が進めば進むほど、その業界が成長し、宇宙での仕事も増加することです。その結果、私たちが宇宙に行くきっかけも増えます。

1983年の映画『ライトスタッフ』の登場人物のセリフ、「No bucks, no Buck Rogers. (お金がなければ、宇宙飛行士は生まれない。)」は、言い得て妙です。

 

宇宙医学

1961年、宇宙での活動が体調不良を引き起こすことがわかりました。宇宙に行った4番目の飛行士ゲルマン・チトフ氏が、宇宙酔いで嘔吐した最初の飛行士となったのがその年でした。骨と筋肉の減退や、味覚と嗅覚の障害も宇宙開拓の代償と言えます。ミッションが長引けば、そうしたリスクも高まります。たとえば火星探査には21か月かかります。しかし、無重力の環境にそれほど長く滞在できた宇宙飛行士は9人しかいません。

Dava Newman氏は、宇宙での生存と繁栄を考えたときに最も大きな問題となるのは放射線である、と警告します。同氏は、MITで航空学と宇宙航行学に関するアポロ計画の教授を務めています。宇宙に向かう人たちは、大気圏に突入後に、太陽粒子と宇宙線による放射線にさらされます。これが、長期的にがんのリスクを増大させ、ミッションの途中で放射線による深刻な体調不良を引き起こします。

NASAの現在の計画では、宇宙飛行士は、十分な宇宙服とともに放射線を防ぐベストを着用します。おそらく将来、火星の移動軌道に配置可能な放射線シールドや、火星の地下に建設されるコロニーも、放射線による突然変異から人体を守ってくれるでしょう。

Newman教授は、長期間の飛行で深刻になる問題として、視覚障害にも言及しました。無重力による水分や圧力の変化が原因で、ISSに滞在した宇宙飛行士の20%が視力の低下を報告しています。

視力への影響は短期的なもののようですが、すべてを明らかにしようと、NASAは、「ISSクルーの目の健康に関する予期的観察研究」を計画しました。結果は現在保留中ですが、宇宙飛行士はそれを「目」にすることを心待ちにしています。

 

社会的/政治的なガイドラインが 宇宙にも必要

人々が宇宙に住むときには、人類の偉業とともに、人類の欠点も持ち込むことになります。政策研究者であるDanielle Wood氏は、新世界を築くための基礎となるガイドラインが必要であると語り、こう尋ねました。「水や食料を手に入れられるのは誰ですか」。「公平な人間環境をどのように設計しますか」。「公園を作る必要はありますか」。どれも難しい質問です。

これらの質問にはまだ誰も答えられません。しかし、火星や月、または軌道上の居住地でも、そこに到達したときには、宇宙旅行文明を築く意味をすべての人が同じように理解しておく必要があります。Wood氏はこう語ります。「宇宙の利益を誰もが享受できなければなりません。宇宙は、全人類のための居住区なのです」。

NASAの准長官、Stephen Jurczyk氏は、宇宙を目指す国々は、COSPARが示す惑星保護の方針を採用していると語ります。COSPARの戦略では、どの国も宇宙を汚染しないことが明確に述べられています。

「新たな基準が必要になります。営利企業はその他の惑星も探索しようと考えるからです。こうした営利企業が新しい基準に従うようにする方法を見つけなければなりません」とJurczyk氏は語ります。

惑星や太陽系外惑星で、国や企業が、地球人として映画『アンドロメダ…』のような事態を招かないように強制する仕組みはないのでしょうか。それはありませんが、Jurczyk氏はこう語ります。「(COSPARの) 最も重要なポイントは、羞恥心を持つことです」。

ところで、私たちの未来の居住地を「colony (コロニー)」と呼ぶのはやめましょう。「colony (植民地)」という言葉を使うのは、18世紀で終わりにするべきです。

 

宇宙を目指す リーダーへの教訓

  • 長い間、政府が手がける領域であった宇宙事業が、企業にも解放されています。
  • 宇宙探査は刺激的で冒険心を掻き立てますが、人類にとって危険でもあります。火星に到達して安全に帰還できるようにするには、さらなる調査と対応策が必要です。
  • 宇宙のどこへ行くにも、人間らしさを忘れずに。ガイドラインを整備して、常に倫理的に行動できるようにしましょう。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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