2019年4月16日

政府と公共部門におけるITトレンド

大幅には増えない予算という課題と向き合いながらも、政府と公共部門のITリーダーは、イノベーションを計画しています。

米国の連邦政府、州政府、地方自治体では、2019年のIT関連の支出が2~4%増加するというケースが大半です。大幅には増額されない予算を理由に縮小することもなく、多くの都市が引き続き、IoT、自動運転車、ブロックチェーン、ドローン、5Gワイヤレスといった新たな技術の試験的な導入やリリースを行います。

一方で、サイバーセキュリティに関する大局的な懸念は、次年度も、すべての公共部門で (言うまでもなく民間部門でも) 継続します。選出議員や政府のCIOは、セキュリティギャップの存在への懸念を公にしています。サイバー攻撃による損失を防ぐとともにランサムウェアを抑制しようと、保険への投資を急ぐ政府も少なくありません。

 

サイバーセキュリティに関する懸念が今後も継続

ITリーダーと議員の一部は、連邦政府の機関がサイバーテロと戦うための調査に十分に投資していないと懸念を示しています。トランプ政権がホワイトハウスのサイバーセキュリティコーディネーターの職を廃止した際に、バージニア州・民主党のMark Warner米上院議員は、この動きを、「きわめて信じがたい」と表現しました。

Warner議員は上院情報委員会の副委員長であり、超党派のリーダーとして高い評価を得ています。その理由の1つは、テクノロジーとワイヤレス関連のスタートアップに眼識を持つ投資家を経てバージニア州知事となり、2期目の上院議員であるという経歴にあります。

「米国へのサイバーテロによる脅威がこれまでになく高まったのと同じタイミングで」、そのコーディネーターの職務がなくなったと、Warner議員はメールで語りました。「私たちの敵は、21世紀のサイバー戦争で威力を発揮するために多額を投じています。国家の安全を、20世紀の従来の視点で考えることしかできなければ、ますます非対称になるサイバー脅威に対応できなくなります」。

その一方で、Warner議員は、トランプ大統領が、2019年の管理計画で、ITモダナイゼーションを「トランスフォーメーションを推進する主要な要素」と説明したことを喜ばしく思ったと語りました。同氏は、2017年の暮れ、政府の技術をモダナイズする法案の可決に、超党派のリーダーとして取り組みました。「技術のモダナイズは、私たちが十分に理解すべき課題です」と同議員は語ります。連邦政府はこれまで、IT予算の80%を運用保守に当ててきましたが、Warner議員によると、その対象の「大部分が古いレガシーシステムで、モダナイズのための投資はほとんど行われていません」。

 

2019年の連邦政府の支出は基本的に横ばい

トランプ大統領は、2019年の非軍事利用かつ一般市民向けの連邦政府ITに、458億ドル近くを支出するよう求めました。2018年と比較すると2億2,100万ドルの微増です。これは、2018年に防衛と極秘のプロジェクトに支出された425億ドルを除外したうえでの比較です。

IDC社のリサーチディレクター、Shawn McCarthy氏は、連邦政府ITへの全支出額が、2019年には2.4%わずかに上昇し、これによりデータセンターの統合が今後もさらに進むと予測しています  (同氏は、一般市民向けではない支出と防衛関連の支出を要因として考慮しています)。

こうした統合の加速は、連邦政府が、データセンターリソースのマッピングツールと、統合を支援するシステムインテグレーターやコンサルタントの雇用に強い関心を持つことを意味します。ただし、こうした職務は必ずしも政府職員が行うわけではないと、McCarthy氏は指摘します。

どの都市も変革を自身で実現できます。その鍵は、独自のニーズに基づいた戦略を立て、スマートインフラストラクチャ構築の基礎を確立することです。さらに、市民が利益を享受できるような成果に着目します。

 

州と地方自治体の支出は4%増加

都市と州では、2019年のITへの支出が約4.5%上昇すると、McCarthy氏は予測します。こうした上昇分の多くは、都市による支出です。都市と州での「IoTの統合が大きく影響します」と同氏は語ります。ブロックチェーン技術に関心が集まり、小規模な試験的導入が行われますが、その支出が大幅に増加するのは数年後です。2019年に5G推進の要因となるのは、主にVerizon社やAT&T社などのキャリアです。しかし、その技術に関心を寄せるのは、都市の職員と一部の居住者です。

2019年には、何百万ものIoTセンサーが、都市の、街灯、道路用の照明、下水道などに、全国的に設置されます。こうしたセンサーは、新しいソフトウェアツールを備え、生成した何テラバイトものデータを解釈して、ワイヤレスネットワークでサーバーに何度も配信します。都市、郡、州でも、天気、大気質、市民の健康と、凶悪犯罪、就学率・中退率、自動車事故の死亡者などを結び付ける斬新な方法を発見するために、クラウドベースの分析システムがさらに導入されます。

 

公共部門ITと民間部門ITが、給与額で再び競合

概して、公共部門は、民間部門に対抗できるような給与額の維持に今後も苦心します。政府機関ITの平均的な予算が、2019年のインフレよりも、わずかばかり早く拡大すると期待されても、そうした困難を抱えるとDan Lohrmann氏は語ります。Security Mentor社のチーフセキュリティオフィサーである同氏は、ミシガン州のCTOとCSOを務めていました。

サイバーセキュリティへの支出はおおむね増加しますが、公共部門は「増大するサイバー脅威への迅速な対応に今後も苦労する」と、Lohrmann氏は続けます。同氏は、サイバーセキュリティに関する取り組みを主導する州政府として、バージニア州、ミシガン州、ジョージア州、ミズーリ州、アリゾナ州、ペンシルベニア州、ユタ州を特定しました。また、それらに続く州として、カリフォルニア州、ワシントン州、メリーランド州を挙げました。

 

民間部門がサイバー人材を獲得できる要因

メリーランド州は、サイバーセキュリティハブを形成している点で特に優れています。Port Covingtonと呼ばれるサウス・ボルチモアの工業用地では、235エーカー (95万1,011平方メートル) 規模の再開発プロジェクトが進んでおり、セキュリティハブはその一環として形成されます。最近、サイバー関連の企業3社が、2020年にそこでオープンする新しいビルに移転を決めました。その中の1社、AllegisCyber社がシリコンバレーからボルチモアに拠点を移す理由の1つは、従業員の高額な生活費の負担を軽減することです。

「新しいサイバー企業が、事業に適した場所として、メリーランドを探し当てています。そのことが、彼らと協力して従業員の将来を形作っているという私たちの努力を証明しています」と、メリーランド州の労働長官、Kelly Schulz氏はメールで語りました。メリーランド州とバージニア州はともに、複数の政府機関が近くにあることで恩恵を受けています。

2019年に州政府で重要になるのは、テクノロジーに秀でたその他の州と競争する方法がさらに見つかることです。多くの場合、公共部門と協力して、新しい技術の試験的導入を民間部門の企業に働きかけることで、そうした方法を発見できます。アリゾナ州とユタ州では、自律または自動運転車の試験と、関連するワイヤレステクノロジーの試験につながる大きな要因を引き続き期待できます。Waymo社が、アリゾナ州フェニックス郊外のチャンドラーで、自律運転タクシーの運用を2019年の初めまでに開始する予定です。

 

2019年はコネクテッドカーにさらに期待

ユタ州運輸省では、都市のバスと除雪車で採用する、コネクテッドカーのデータテクノロジーに対して、2019年の支出を前年よりも大幅に増額する計画です。そう語るのは、同省で技術とイノベーションのエンジニアを務めるBlaine Leonard氏です。ソルトレイクシティのバスと除雪車から収集されたデータは、都市と通勤者が時間どおりに移動する際の判断に役立ちます。

「除雪車で交通信号のプリエンプションを行うことを提案しています。これにより、除雪車が来たときに青信号の時間が延長され、除雪車はそのまま作業を続けられます」とLeonard氏は語ります。「私たちは、そのオンボードのデータを利用します。除雪車は信号機に近づくと、「除雪中のため、信号は青のままで」とワイヤレス通信で応答します」。この技術では、狭域通信 (DSRC) と呼ばれるワイヤレスチャンネルを活用します。

ユタ州運輸省が計画中の除雪車の技術にかかる費用は、2019年で100万ドル未満ですが、「その額でも高い効果を得られる」とLeonard氏は指摘します。

ユタ州は、多くの州と同様にトレンドの影響を受け、自律運転車とコネクテッドカー (AVとCV) の研究に強い関心を持っています。「同業者のほとんどがAVとCVをよく話題にしており、その傾向がますます強くなっています。自動車の製造業者と話すと、さらに現実味を帯びます」とLeonard氏は語ります。完全に無人化されたハイウェイシステムは、はるか先の将来、おそらく今から数十年後でなければ実現しないでしょう。しかし、2019年には、州が民間企業と連携することで、無人運転環境の基礎作りが発展すると同氏は言います。

自動車が対話 (他の自動車との通信、および信号機との通信) できるようにし、そうした自動車を増やせれば、フリーウェイの1車線でそれらを隊列にして走らせる (プラトーン走行) ことができます」とLeonard氏は語ります。「その技術的な能力はすでにありますが、必要最小数の自動車を得られるまでには時間がかかります」。

また、Leonard氏はこう指摘します。「同じスピードで走行させるには、自動車を自動化する必要があります。しかし、スピードを制御するのは誰なのか。運輸省でしょうか、それとも自動車でしょうか。未知の課題がまだ数多くあります。大型のトラックでは、車両間通信とDSRCを使用して、プラトーン走行をすでに開始しています。この州では、1社と試験を完了させ、法的にもそうした走行が可能になっています」。

 

州が知見を共有し自動運転の研究が加熱

40以上の州で、自動運転車の試験の承認に向けた動きがあり、6つの州の知事が、それを許可する行政命令に署名しました。「AVの安全性が高まっている点には、一般的でも普通ではない意見の一致があります。しかも、企業が州に技術をもたらすときに、多くの州が、その技術によって生まれるビジネスを認識しています」とLeonard氏は語ります。

競合していても、州は、無人運転の技術とベストプラクティスに関する情報を、積極的に共有しています。トランプ政権の下では、連邦政府の運輸当局者の規制が緩和されました。それが、保守的なユタ州に非常に適していたと、Leonard氏は語ります。

トランプ大統領の選出前は、連邦政府の当局者が、未来の自動車にDSRCを備えるよう命じることになっていました。しかし、トランプ政権は手を緩め、自動車業界に、未来の自動車で採用するワイヤレス通信の方向性を判断させました。

「私は、連邦政府の規制が厳しくなり、通信技術に関する要求が続いた方がよかったと思います」とLeonard氏は言います。

ユタ州とその他の州が自動車から取得するすべてのデータによって、2019年は、サイバーセキュリティとデータプライバシーがますます注目されます。「どの州もこうした懸念の解消と、サイバー攻撃者に隙を見せない通信技術の確立に取り組んでいます」とLeonard氏は続けました。「私たちが必要としているのは個人データではなく、交通に関するデータなのです」。

どの運輸部門も、これまで利用した経験がないほどの膨大な量のデータにアクセスします。「コネクテッドカーによって、私たちは、交通と高速道路の管理にデータを活用できます。こうしたデータがあれば、ゾーニング、プランニング、交通管理を効果的に行えます」とLeonard氏は語ります。

これまで「データは新たな石油である」の格言が示す状況になかった州と地方自治体にとって、2019年は、公共部門、とりわけ幹線道路部門のITリーダーと選出議員が、その意味を真剣に考える年になります。

 

ラスベガス市とルイビル市の2019年

都市の政府機関ITのトレンドは、2019年に大きく変わります。ITの予算全体が実質的には増えないにもかかわらず、IoTとその他の技術イノベーションに強い関心が集まります。

ラスベガス市とケンタッキー州ルイビル市はともに、予算がそれほど増額されなくても、大がかりな研究を計画しています。

市民のためのイノベーションとテクノロジーの責任者、Grace Simrall氏によると、ルイビル市メトロ政府は、2019年に、ITサービス、ソフトウェア、ハードウェアが徐々に増加すると予測しています。ルイビル市は、過去3年間で、サイバーセキュリティに300万ドルを投じ、ITセキュリティチームの規模を2倍に拡大しました。

ルイビル市は、最近、オープンデータとクラウドソースデータの技術を発展させ、大気と交通渋滞を管理しています。同政府は、ドローンの数を増やすための助成金も申請しました。こうしたドローンを銃撃検出プラットフォームに統合することで、犯罪の発生を抑制します。

「私たちはデータセキュリティとデータプライバシーを、成長を抑制する要因とは見ていません」とSimrall氏は語ります。「スマートシティは、デジタル的に柔軟でなければなりません」。

ラスベガス市が、ITサービス、ソフトウェア、ハードウェアに投資する額は、2018年の水準のままで、約1,400万ドルです。ただし、それは、同市が新しい技術に強い関心を持つことを示すものではありません。

ラスベガス市は、引き続き、コネクテッドカーと自動運転車の技術を導入します。この技術は、2017年の暮れにダウンタウンに無人のシャトルバスが導入されたことから始まりました。同市のエンタープライズプロジェクトマネージャー、Don Jacobson氏によると、市の資産管理システム向けブロックチェーンと、公共の安全を強化するビデオ分析も計画されています。

Jacobson氏によると、その他の都市、州、連邦政府機関と同様に、ラスベガス市は、必要なITスキルを持った要員を引き付けるのに苦心しています。特に、データ分析の分野で人材が不足しています。「自動化とIoTのデータ生成に見合う対応が難しくなっています」と同氏は語ります。

この2つの都市を見ると、予算を制限された政府では、その動向が、低コストで大きな収入を期待できるテクノロジーイノベーションの発見にシフトしていることが分かります。その観点で言えば、地方自治体、州、連邦政府のレベルで見た2019年の政府機関ITは、最近のどの年とも、さほど変わりはありません。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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