最先端イメージセンサーを生み出す、光学シミュレーション基盤の進化に貢献
光学シミュレーション業務の高速化・最適化にHPE GreenLakeが寄与、新製品のタイムリーな市場投入と本来業務への注力に成功
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社では、デジタルカメラやスマートフォンに欠かせないイメージセンサーの研究開発を行っている。その設計にあたっては様々な光学シミュレーションを行うが、従来はサーバーの調達やインフラの運用管理に多くの負担を要していた。そこで同社では、日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)の「HPE GreenLake、及び、HPE Managed Services」を採用。クラウドライクに活用できる新たな光学シミュレーション基盤を構築することで、設計業務の効率化を実現している。
業種
半導体製造業
ビジョン
最高度のイメージング&センシングテクノロジーで、映像クオリティと認識機能の限界に挑戦し、あらゆるシーンにソリューションを展開する
戦略
「HPE GreenLake」により、新しい光学シミュレーション基盤を構築
成果
• 光学シミュレーション用サーバーの運用管理負担を解消
• 仮想サーバーの払い出し作業を自動化することに成功
• リソースの利用の無駄をなくし、対応できるシミュレーション業務増に貢献
• 新たなシミュレーション手法の開発など、本来業務への注力を実現
イメージセンサーをはじめとした、半導体デバイス事業をグローバルに展開
エレクトロニクスやゲーム、音楽、映画、金融など、幅広い領域にわたるビジネスをグローバルに展開するソニーグループ。その事業戦略の一翼を担っているのが、ソニーグループの半導体事業を担う事業会社として2016年に稼働を開始したソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)である。同社は、イメージセンサーやマイクロディスプレイ、各種LSI、半導体レーザーなど、革新的な半導体デバイス製品群を次々と世に送り出してきた。中でも主力製品であるイメージセンサーは、世界トップの売上シェア(金額ベース)を誇る。
SSS 第4研究部門の本窪田昌也氏は「半導体業界においては、設計業務に特化して生産設備を持たないファブレス企業も少なくありません。当社では、イメージセンサーの基礎研究から製品の設計、開発、生産に至るまで、グループ内で一気通貫に行っています。この総合力を強みとして、業界を先駆ける技術を高い品質で提供しています」と語る。デジタルカメラやスマートフォンといった身近な製品はもちろんのこと、自動車やセキュリティカメラなど、イメージセンサーの市場は年々拡大を続けている。同社でもこの分野におけるリーディング・カンパニーとして、さらなる躍進を目指す構えだ。
光学シミュレーション用サーバー群の運用管理が大きな負担に
その同社のイメージセンサー開発において、重要な役割を担っているのが「光学シミュレーション」である。本窪田氏は「イメージセンサーは外から入ってきた光を電気に変えるデバイスですので、できるだけ効率よく変換を行いたい。100の光が入ってくれば、100の信号に変換できるのが理想です。また、光はRGB(赤・緑・青)の三原色で構成されていますので、これらをきれいに分離することも重要です。イメージセンサーの構造や材料を、どのようにすればこれが高いレベルで実現できるのか。それを確かめるのが光学シミュレーションの役割です」と説明する。
もちろん、こうしたことを知る上では、様々に条件を変えたセンサーを実際に試作する方法もある。しかし、同社では、膨大な種類にのぼるイメージセンサーを提供しているため、一つひとつの製品ごとに何度も試作を行うのは、コスト面でも開発期間の面でも現実的ではない。高品質な製品をタイムリーに市場に提供していくには、光学シミュレーション基盤が欠かせないのである。
しかし、従来の光学シミュレーション基盤は、様々な課題も抱えていた。本窪田氏は以前の状況を「光学シミュレーションは非常に負荷が重く、一つの処理に数日かかってしまうことも珍しくありません。そこで従来は、高性能な物理サーバーでインフラを構築していましたが、セキュリティ対策や新開発したCAEソフトの展開といった運用管理に要する手間が意外と無視できない。しかも、老朽化したサーバーの更新作業なども定期的に発生します。光学シミュレーション基盤は、規模的にも相当大きなシステムだけに、このような問題に常に悩まされていました」と振り返る。加えて、大量のサーバーを一気に入れ替えることが出来ず、スペックの異なる複数世代の製品が混在してしまう点も課題だったとのこと。「その結果、このシミュレーションには新しいサーバーを使いたい、別のシミュレーションは古いサーバーでも大丈夫と言った具合に、非効率な作業が発生してしまう」と本窪田氏は続ける。
一時はオンプレミスで環境を持つのではなく、パブリッククラウドへの移行も検討したとのこと。しかし、これも抜本的な解決にはつながらないことが判明した。光学シミュレーション基盤を構成するサーバー群は、常時フル稼働し続けている上に、非常に高いスペックも求められる。この要件をパブリッククラウドで満たそうとすると、オンプレミスで環境を構築するよりも、むしろコスト高になってしまうことが分かったのだ。
HPE GreenLakeを採用し、インフラ環境をサービス利用型に転換
このような状況を打開すべく、同社では新たな光学シミュレーション基盤の導入に着手した。ここでは、大量のサーバー群を仮想化すると同時に、設置場所を社内から外部データセンターへ移設。さらに、マネージドサービスも活用し、運用管理に掛かる負荷を下げるとの方針が立てられた。これらの要件を満たすソリューションとして白羽の矢が立ったのが、HPEが提供する従量課金型ITインフラサービス「HPE GreenLake」(以下、GreenLake)である。このサービスでは、各種のITリソースをユーザー施設内に設置し、利用した分だけを月額料金で支払うことができる。HPE Managed Serviceによりインフラ環境の監視や障害対応などもHPE側で実施するため、運用管理負担も大きく軽減。まさに、パブリッククラウドとオンプレミスの「良いとこ取り」を実現したサービスなのである。
同じソニーグループの通信事業者であるソニーネットワークコミュニケーションズの宮本悠氏は「高速光回線サービス『NURO 光』やMVNOサービス『NUROモバイル』、ISPサービス『Sonet』などの事業を手掛ける当社では、自社データセンター設備やネットワークを活用して、ソニーグループ企業へのソリューション提供も行っています。今回も新光学シミュレーション基盤向けの提案を検討していたところ、当社サービスとGreenLakeを組み合わせる構想が浮上してきました。これなら回線廻りのサービスだけでなく、ハードウェア機器や運用監視サービスもワンストップで提供できます」と語る。
元々、ソニーグループ内でも、IT資産を自前で持ちたくないとのニーズが年々高まっていたとのこと。ソニーネットワークコミュニケーションズの柏木卓馬氏は「物理サーバーの運用管理や老朽更新に苦慮している状況は、他のグループ企業でも同様です。当社自身はハードウェアベンダーではありませんが、HPEとのパートナーシップを活用すれば、こうした面でもグループに貢献できます。GreenLakeは、まさに我々にとって『渡りに船』のサービスでしたね」と続ける。
HPE Managed Servicesオートメーションパックで、仮想サーバーの払い出し作業も自動化
さらに、もう一つの決め手となったのが、基盤運用サービス「HPE Managed Services」(導入当時の名称は「HPE GreenLake Management Services」)の存在だ。ここではインフラ廻りの運用監視だけでなく、ゲストOSの払い出しなどの作業を自動化する「HPE Managed Servicesオートメーションパック」というメニューも用意されている。これが運用管理にまつわる課題を解決する重要なカギとなった。
新光学シミュレーション基盤では、シミュレーションを行うたびに毎回新規にOS/アプリケーション環境を構築し、作業終了後は廃棄する運用を行っている。「脆弱性を抱えたままのサーバーが社内で稼働するのを防ぐと同時に、どのような用途でどれくらいサーバーが使われているのか管理し、利用効率を最大化したい」(本窪田氏)というのが、その理由だ。しかし、このような運用は、当然ながら多くの工数と時間を必要とする。
「こちらとしては最新のパッチを当てたいと思っても、『シミュレーション中だから数日待ってほしい』と言われるケースもあります。すると、その間に忘れられてしまうリスクも無いとは言えません。また、使用中のサーバーや空きサーバーの管理も手作業でしたので、なかなか実情が正確に把握できませんでした。たとえば、台帳上では使用中となっているにも関わらず、実際にはそのリソースが使われていないといったケースもありました」と本窪田氏は振り返る。
パッチ適用の問題などは、仮想化技術の活用によってある程度解決できるが、シミュレーションに必要な環境を構築/デプロイする作業については、ただ仮想化しただけではどうにもならない。その点、HPE Managed Servicesオートメーションパックを利用すれば、これらの作業もHPEにアウトソーシングすることができる。本窪田氏は「自動化の仕組みについては、最悪自前で作り込むことも考えていましたので、こうしたサービスメニューがあらかじめ用意されていたのは非常にありがたかった」とにこやかに語る。
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
第4 研究部門
本窪田 昌也 氏
新たなシミュレーション技術の開発をはじめとした、本来業務への注力が可能に
こうして導入された新光学シミュレーション基盤は、2022年10月より本番稼働を開始。負荷の重いシミュレーションを高速に実行できるよう、インフラの中枢にはHPEのクラス最高水準の性能と拡張性を持つインテル®Xeon®スケーラブル・プロセッサーを搭載する「HPE ProLiant DL360 Gen10」が採用されている。「プロジェクト開始前には、仮想化によって性能が低下するのではとの懸念もありました。しかし、HPEに綿密な事前検証を行ってもらったこともあり、以前の物理環境とほとんど遜色ないパフォーマンスが得られています」と本窪田氏は満足げに語る。
また、開発者にシミュレーション環境を払い出す作業についても、大幅な効率化が実現。現在では、ユーザーが自分の作業に必要な仮想サーバーの台数やスペックをリクエストするだけで、要望に合った環境が自動的にデプロイされる。「以前は空いているサーバーを探したり、使用中のサーバーが本当に使われているか確認したりする必要がありましたので、開発者の手元に必要な環境が届くまでに2~3日掛かるケースもありました。これがゼロにできたのは非常に大きい。以前より業務がスピーディに行えるようになったと、ユーザーからも歓迎の声が寄せられています。また、誰が、何の用途でサーバーを利用しているか分かりますので、どのカテゴリの製品のシミュレーション需要が多いのかといったことも把握できるようになりました」と本窪田氏は続ける。
加えて、インフラの運用監視やアップデート、トラブル対応などの作業から解放された点も見逃せない。柏木氏は「この点については、お客様だけでなく、当社のようなソリューションプロバイダにとっても大きなメリットとなっています。たとえばサーバーなどの機器に障害が発生した場合、これまではまず当社に連絡を頂いて、そこからハードウェアベンダーに対応を依頼するのが一般的でした。その点、HPE Managed Servicesであれば、HPEが全て対応を行ってくれますので、我々が間に入る必要がありません」と語る。
また、本窪田氏も「属人的な作業を外部へ切り出し、本来の設計開発業務に注力できるようになったのは大きな成果。私を含めたすべての開発者が、完全に設計開発業務にシフトできました。これによりシミュレーション業務をより効率的に行えるようになったことはもちろん、将来に向けた新しいシミュレーション技術の開発などに人的リソースを充てられるため、当社の競争力向上に寄与する取り組みと捉えています」と力強く語る。
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
法人サービス事業部 ソリューションサービス部
システムインテグレーション2課
宮本 悠 氏
新光学シミュレーション基盤を他の設計開発部門へも展開し、よりタイムリーな製品開発を推進
さらに同社では、今回構築した新光学シミュレーション基盤の適用領域をより広げていく考えだ。本窪田氏は「オンプレミスのリソースにも限りがありましたので、これまでは当部門だけで光学シミュレーション基盤を利用してきました。しかし社内には、他にも光学シミュレーションを行っている、行いたいという部門があります。せっかくより柔軟なスケーラビリティを備えた新しい環境を確立できたわけですから、今後はそちらでも、今回の新基盤を使ってもらおうと考えています」と説明する。
同じシミュレーション基盤を全社で利用すれば、共通化によるスケールメリットが得られる上に、評価基準の統一などにも役立つ。また、高品質な製品をよりタイムリーに市場に展開していく上でも、大きな効果が期待できる。そのための拡張計画も着々と進められているほか、GPUの導入なども行っていく予定だ。「今回の取り組みは、シミュレーション技術の活用を会社全体でさらに促進し、より良い製品を、より短期間で創り上げるための橋頭保となりました。最終的には、イメージセンサー単体のデバイス特性だけでなく、その特性によって最終的にどういう画質が得られるのかまでシミュレーションできるように発展させていきたい」と本窪田氏は語る。今回の新光学シミュレーション基盤は、いわば「ソニーの画作り」に関わる部分まで支えていくことになるのである。
またソニーネットワークコミュニケーションズでも、今回のプロジェクトで培った経験を、グループ向けソリューションに活かしていく予定だ。宮本氏は「光学シミュレーション基盤での実績は、今後に向けた一つのひな形となります。同様の悩みを抱えるグループ企業の課題も解決していきたいと考えていますので、GreenLakeとHPEとのパートナーシップにも大いに期待しています」と述べた。
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
法人サービス事業部 ソリューションサービス部
ソリューション営業課
柏木 卓馬 氏
第3世代インテル®Xeon® スケーラブル・プロセッサー
今回のHPEサーバーを支える心臓部にはインテル®Xeon® スケーラブル・プロセッサーを採用。さまざまな種類のワークロードに高い性能を提供し、内蔵のAIアクセラレーションと高度なセキュリティ機能も備え、エッジからクラウドまで最高のパフォーマンスを発揮します。2021年春には第3世代インテル®Xeon® スケーラブル・プロセッサーに進化。最大40コアを提供し、メモリーやI/O帯域幅が強化されています。また、インテル® ディープラーニング・ブースト、インテル® アドバンスト・ベクトル・エクステンション512(AVX512)、インテル® スピード・セレクト・テクノロジーといったワークロード・アクセラレーション機能を内蔵し、パフォーマンスやスループットが前世代製品から大きく向上しています。
※ Intel、インテル、Intel ロゴ、Intel Inside、Intel Inside ロゴ、Celeron、Celeron Inside、Intel Atom、Intel Atom Inside、Intel Core、Core Inside、Intel vPro、vPro Inside、Itanium、Itanium Inside、Pentium、Pentium Inside、Ultrabook、Xeon、XeonInside、Intel Xeon Phi は、アメリカ合衆国および /またはその他の国における Intel Corporation またはその子会社の商標です。
ご導入製品情報
HPE ProLiant DL360 Gen10
マルチワークロード環境に対応できるきわめて高い柔軟性と他にはない拡張性を備えた、2P/1Uの高密度コンピュートの標準です。
HPE GreenLake
HPE GreenLakeは、エッジ、コロケーション、データセンターでオンプレミスのワークロード向けに、従量制課金モデルでフルマネージドのパブリッククラウドサービスとInfrastructure as a Serviceを提供します。
ソリューションパートナー
本件でご紹介の日本ヒューレット・パッカード製品・サービス
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