社会課題解決とDX人材の育成に向け、先進ICTを駆使した教育研究基盤を構築
データ科学+計算科学を支える新スパコンシステムをHPEのHPC & AIソリューションで実現
兵庫県立大学 大学院 情報科学研究科では、社会課題の解決や産業・社会における価値創造に貢献できる先端DX人材の育成に取り組んでいる。その教育研究活動においては、ビッグデータの収集・分析やモデリング、シミュレーションなどを行うための計算機環境が必要不可欠となる。そこで同研究科では、日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)のHPC & AIソリューションによる新スパコンシステムを新たに導入。次世代を担う高度情報人材の教育や民間企業との産学連携に役立てている。
業種
文教
ビジョン
データ科学+計算科学を担う先進的な教育研究用計算機環境の実現
戦略
HPEのHPC & AIソリューションを活用し、公立の大学ではトップを誇る新スパコンシステムを構築
成果
• シミュレーションの速度や精度を大幅に改善することに成功
• AI/機械学習などの新たな教育研究ニーズへの対応を実現
• 幅広い産業分野で活躍できる先端DX人材の育成に貢献
計算科学とデータ科学を軸に据えた教育研究活動を展開する情報科学研究科を新たに開設
神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の県立3大学の統合により、2004年に開学した兵庫県立大学。6学部、9研究科、4附置研究所と附属高等学校・中学校を擁する同大学は、全国でもトップクラスの規模を誇る公立大学である。「教育の成果を誇りうる人間性豊かな大学」「先導的・独創的な教育を行う個性豊かな大学」「世界に開かれ、地域とともに発展する夢豊かな大学」の3点を目指す大学像とし、次世代を担う人材の育成に全力で邁進。ちなみに同大学では、兵庫県内に9つのキャンパスを展開しているが、そのうち播磨理学キャンパスは大型放射光施設「SPring-8」に、神戸情報科学キャンパスは日本が世界に誇るスパコン「富岳」を有する国立研究開発法人理化学研究所計算科学センターにそれぞれ隣接しており、これら先端研究機関との連携も推進している。
さらに2021年4月には、シミュレーション学研究科、応用情報科学研究科の大学院2研究科を統合し、情報科学研究科を新たに設置した。兵庫県立大学 大学院 情報科学研究科 教授 鷲津 仁志 氏は、その背景を「『Society 5.0』の実現やビッグデータ利活用の促進を図る上では、社会課題の解決に取り組む先端DX人材の育成を急がなくてはなりません。そこで当研究科では、科学研究手法の第3のパラダイムである『計算科学(シミュレーション学)』と、第4のパラダイムである『データ科学』を有機的に融合。データ収集・分析やモデリング、シミュレーションなど、計算科学とデータ科学にまつわる様々な概念・知識を幅広く修得し、高度情報技術者として社会で活躍していける人材の育成を進めています」と語る。
現在情報科学研究科には、ビッグデータ時代に欠かせないデータ分析を学ぶ「データ科学コース」、大規模シミュレーションによって自然科学や社会科学の諸問題を解き明かす「計算科学コース」、データ科学・計算科学をヘルスケア分野で活かす「健康医療科学コース」、産業・社会の脅威であるセキュリティ課題に取り組む「情報セキュリティ科学」の4つのコースが設けられている。いずれのコースにおいても、先進的な教育研究活動を展開。鷲津氏は「たとえば私の研究室では、トライボロジーと呼ばれる摩擦・摩耗・潤滑分野の教育研究、具体的には界面における分子集団の大規模分子シミュレーションを専門としています。ナノメートルからミリメートルまで、多様なサイズの粒々の動きをシミュレーションし、様々な現象を解明するといった具合ですね」と語る。摩擦は我々の身の回りのあらゆるところで起きるだけに、自動車、製鉄、石油化学、電池、電力、医療など、幅広い分野の企業との共同研究も行っているとのこと。鷲津氏は「産学連携はいわば本学のDNAでもありますので、当研究室でも民間企業との連携を積極的に推進しています。元素周期表で有名なメンデレーエフも、学生時代には実学に力を注いだ人でした。同じ化学者である私も、『浪速のメンデレーエフ』として産業の発展に貢献していきたい」とにこやかに笑う。
研究ニーズの多様化に対応すべくスパコンシステムの更新を実施
こうしたシミュレーションやAI、機械学習などを用いた教育研究を進めていく上で、絶対に欠かせないのが高い性能と信頼性を備えたICTインフラである。情報科学研究科でも、前身であるシミュレーション学研究科時代から、スパコンシステムの整備・拡充を継続的に実施。そしてこの度、3度目の更新に取り組むこととなった。今回の新システムの狙いについて、鷲津氏は「研究教育のためのシステムなので、まずは多種多様な研究ニーズに柔軟に対応できるものでなくてはなりません。また、近年では研究に用いられるデータ量が急速に増加している上に、富岳で計算したデータの後処理を行うケースもあります。このためストレージについても、より一層の高速・大容量化を図りたいと考えました」と語る。同研究科では、研究成果の発表や広報・情報発信活動のための3次元立体可視化装置を以前から運用しているが、これについても引き続き整備を行うこととした。
2020年10月に実施された一般競争入札において、HPEがこの事業を担当することが決定。鷲津氏はHPEの提案内容を「環境全体をマルチベンダーで構築してしまうと、後々の保守や運用管理が煩雑になってしまいかねません。その点、HPEでは、幅広いポートフォリオと、それを適切にデリバリーし運用・保守まで可能な体制を有していますので、様々な特性やアーキテクチャを有するシステムをワンストップで実現できます。また、我々の利用状況を考慮した上で、新しい提案をしてもらえたのも良かったですね。たとえば、実際の研究では、様々な計算目的に応じてOSやライブラリの組み合わせを変えるケースもあります。当然、その都度環境を作り直さないといけませんので、時間も手間も掛かってしまう。そこでHPEでは、DockerやSingularityなどのコンテナ技術を活用し、研究に必要な環境を短時間で用意できる仕組みを提案してくれました」と高く評価する。
大量データの容易な活用を実現、より高度なシミュレーションも可能に
今回の新スパコンシステムでは、Thinノード/Fatノードの2つのCPUノードに加えて、GPUノード、共有メモリノード、VEノードなど、様々な種類の計算ノードを用意。そのインフラには、「HPE Apollo 2000/6500 Gen10」や「HPE ProLiant DL360/380/560 Gen10」などの高性能HPEサーバーが採用されているほか、「HPE Cray ClusterStor E1000 Storage System」による高速分散ファイルシステムも新たに導入されている。これらの合計演算性能は実に342.9TFlopsと、国内でも有数の性能を誇るシステムとなっている。
「基本的には、それぞれの先生方の研究内容や利用するアプリケーションに応じて各ノードを使い分ける形になります。たとえば大規模計算ならFatノード、GPU計算に特化したアプリケーションならGPUノード、並列化が効きにくい処理は共有メモリノードを使うといった具合ですね」と鷲津氏は説明する。また、新導入の高速分散ファイルシステムの効果も非常に大きいとのこと。鷲津氏は「前回の更新の際にも、ストレージにはかなり力を入れました。しかし、教育研究に使用するデータ量も年々増大する一方ですので、次第に能力不足に。大規模計算処理の実行後に大量のデータを持ってこられると、ストレージが止まってしまうようなこともありました。これでは他の研究にも差し障りが出てしまいますので、HPEのLustreソリューションによって、ストレージの環境改善を果たせたことは大変良かった」と続ける。
スパコンシステムの性能が大きく向上したことで、研究の効率も高まったとのこと。鷲津氏は「これまでは困難だった大規模シミュレーションを手元でできるようになったことが一番大きいですね。以前はまず京コンピュータで解析を行ってから、こちらへデータを持ってくるようなことも多かった。しかし今後は、学内の環境だけで処理を済ませられる場面も増えてくると思います。コンピューティングパワーが上がれば、より精度の高いシミュレーションが行えますし、物性値の予測などもより正確に行えます。また、我々の研究室では水をきれいにする材料の研究も行っていますが、これに利用する機能性イオン膜の機能開発なども手元で行えるようになります」と手応えを語る。加えて、AIや機械学習といったデータ科学の分野においても、数多くのメリットが期待できるとのこと。鷲津氏は「これまで材料科学では、様々な実験データを機械学習の教師データとして用いるのが一般的でした。しかし、今回のような計算機環境があれば、シミュレーションの結果をそのまま教師データとして使うことも可能になります」と語る。
先端DX人材の育成にも大きな効果を発揮
さらに、もう一つ見逃せないのが、同学科が目指す先端DX人材育成への貢献だ。鷲津氏は「もちろん、情報通信関連の企業に就職する学生も少なくありません。しかしそれ以外にも、シミュレーションやデータサイエンスの知識を活かして、様々な産業分野で活躍する卒業生も数多く見られます」と説明する。たとえば、自動車メーカーや製鉄会社などの製造業もその一つ。こうした業界は厳しいグローバル競争に晒されているだけに、先進テクノロジーをビジネスに活かせる能力を身に着けた学生は喉から手が出るほど欲しい人材だ。また、住宅メーカーでスマートシティの実現に向けた研究に取り組んだり、医薬品会社でデータアナリストとして働く卒業生もいるという。「富岳のすぐ隣で、高性能なスパコンを使って大規模データ解析やシミュレーションをやってきた。その経験は、様々な実業を手がける企業にとって非常に有用なものとなります。また、学生自身も、自らの力を最大限に発揮できる道を選ぶことができます」と鷲津氏は力強く語る。ちなみに、同学科が学生を募集する際には、学部生のうちにできるだけ実験や手作業の経験を積むように勧めるのだという。「機械なら図面を描く、電気工学なら回路を組むといった形ですね。その上で、データサイエンスやシミュレーションを教えることで、より実践的な能力を身に着けられるようになります」と鷲津氏は説明する。
今回のシステム導入を支援したHPEへの信頼も厚い。「スパコンセンターがあるような大学だと専任のスタッフが対応してくれますので、教員や研究者が直接ベンダーとやりとりするようなことはあまりありません。しかし、本学くらいの規模だと、我々が兼任でシステムの面倒も見る必要があります。手が廻り切らないような場面も多いので、HPEがいろいろ親身に相談に乗ってくれるのは大変ありがたい。『こうしたことがやりたい』と思った時に、ニーズを汲んで適切な提案をしてもらえるので非常に助かっています」と鷲津氏は語る。ちなみに今回の導入作業に関しては、開札から本稼働まで約3ヶ月というスピード構築も実現している。「コロナ禍の関係もあって少々心配していましたが、蓋を開けてみれば大きな問題もなくスムーズに本稼働に漕ぎつけられました。これもHPC & AI分野での豊富な実績と経験があればこそでしょう」と鷲津氏はにこやかに語る。
同研究科では今回導入した新スパコンシステムをフル活用し、引き続き社会課題解決や先端DX人材の育成に取り組んでいく考えだ。「特にこれからの社会においては、様々な分野の研究が相互に関わり合いながら課題解決を目指すことが重要になります。特定の専門分野を深堀りするだけでなく、横への拡がりも保ちながら社会や産業のニーズに向き合っていきたい。そして本学のような比較的小さな所帯だからこそ、こうした取り組みができるのだと確信しています」と鷲津氏は力強く語る。
また、これと並行して、企業に勤める研究者の博士号取得なども支援していくとのこと。鷲津氏はその狙いを「日本では修士で研究者になる人が多いのですが、こうした方々に博士号を取得してもらうことで、基礎科学の底上げや産業の活性化を図りたい。既に多くの研究者を受け入れていますが、これも他の地方大学にはないスパコンがあるからです。この流れを今後も加速させていきたい」と語る。HPEのHPC & AIソリューションも、こうした取り組みをしっかりと下支えしていくことになる。
兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学
大学院 情報科学研究科
教授
鷲津 仁志 氏
ご導入製品情報
HPE Apolloシステム
要求の厳しいハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) およびAIアプリケーション向けに設計された高密度型コンピュートソリューションです。
本件でご紹介の日本ヒューレット・パッカード製品・サービス
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導入ハードウェア
HPE Apollo 2000 Gen10